第55話 女王蜘蛛

文字数 1,366文字

 妾はアンチノミー。

 古の盟約の獣の1柱、《千手蜘蛛》。

 ヘクサ神林の守護者となり、千数百年。

 妾の守護する神林を侵す愚か者達は、妾の子達の糧となり、妾の贄となったのじゃあ。

『女王陛下。陛下に謁見したいと言う者達が参っております』

 妾に会いたいと? 千数百年の間、一度としてそのような礼儀を通した者達がいただろうか? いや、妾の記憶にはないのじゃあ。

『ほう、どのような者達じゃあ?』

 何々、尋常ではない威圧感を放つ6人組で、リーダーはエルフの少年? 頭に子虎を乗せてる? え、親衛隊が全員気絶して行動不能?

 ふむ、面白いのじゃあ。

 妾の鍛えし精鋭が気当て如きで、気を失うとはどれ程の者達なのじゃあ。


『おい、アミー! 偉そうに待たせやがって!』

 《黒獣》エクリプスが、エルフの子供の頭の上から吼えるのじゃあ。

「そうよ! アミー! 貴女、一族増やし過ぎよ!」

 《氷狼》エンプレスが、人化状態で優美に指摘するのじゃあ。

「おいらも、少しやり過ぎだと思うぞ!」

 《麒麟》パラグラムが、人化状態で憤り非難するのじゃあ。

「アミーちゃん、久しぶりね。元気そうでなによりだわ」

 《海竜》リヴァイアサンが、人化状態でオカマになっていたのじゃあ。


「こんにちは、初めまして僕ビクトリアスと言います。今日は突然お邪魔して、ごめんなさい。どうしても欲しい物があって来ました」

 頭に黒獣を乗せたエルフの子供がペコリと屈託のない笑顔で挨拶をするのじゃあ。

 え、どう言うことなのじゃあ? 貴方達、一体どうやって縄張りを離れてここまで来れたのじゃあ? 古の盟約は? 使命は?

 そして、《黒獣》エクリプスを頭に乗せてる、このエルフの子供の目! ロスタロスの紅玉の瞳じゃあないのか?

 妾は、古の盟約の獣達に問う。

 すると、全てこの紅玉の瞳を持つエルフの子供のお陰だと言うのじゃあ。

 この子供は一体何者なのじゃあ? こんな無法者(アンタッチャブル)達を束ねるエルフの子供に妾は問うたのじゃあ。

 すると、エルフの子供は、何故か恥ずかしそうにビシッとポーズを決めてこう言ったのじゃあ。

「僕が“何者”だって? 僕はアンチノミー! お前の願いを叶える者だ!」

 え、えええええ! 妾の願いを叶えるだって? え、良いの? 本当に良いの? いっやったのじゃあああああ~!

 妾は狂喜乱舞するのじゃあ。

 妾が求めていた存在と、この世界(アルグリア)で本当に巡り会えるなんて、奇跡なのじゃあ~!


 そして、妾はこのエルフの子供、ビクトリアス・エルブリタニアと結婚したのじゃあ。

 妾はアラクネの女王にして、ヘクサ神林の守護者《千手蜘蛛》アンチノミー。

 え、千手草が欲しいって? まあ、旦那(ビズ)さま。そんな物なら、幾らでもお渡しするのじゃあ。

 妾の物は、旦那(ビズ)さまの物じゃあ。

 妾は、

を文字通り山程渡したのじゃあ。

 妾の願いは、『可憐な花嫁』。

 むふふふふふ。

 妾を(めと)る豪の者がいるなんて、夢みたいなのじゃあ。


 その日、ヘクサ神林の中央部に位置するセンジュ山脈が、忽然と

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