第16話 飯はまだかのう?

文字数 2,592文字

 儂はシヴァリウス・デバック。

 帝国正流のデバック流創始者である。

 儂の趣味は食べることじゃ。

 帝都エルシィでの食べ歩きが堪らんのじゃ。

 ムシゃムシゃ。

 昔は自分で獲物を狩って食い捲っていた。

 そうすると何故か人から儂の強さを教えてくれと言われたが、何故儂が教えないといけないんじゃ? 

 阿呆な奴らが多過ぎるのじゃ。

 え。金出すって? 

 やっぱ阿呆なのじゃ。

 金は食べても余り美味しくないのじゃ。

 ったく、困った奴らじゃ。

 それから、何年か経ったら、今度は国から魔物討伐の褒賞をするから、帝城へ来いと言ってきたが、そんなもの行くわけないのじゃ。

 全く国も阿呆なのじゃ。

 金は美味しくないのじゃ。

 またそれから数年経った頃、アリスと言う少女が儂に会いに来たのじゃ。

「老師! 私を弟子にして下さい!」

 またいつもの阿呆かと思ったが、儂の鼻がこの少女の持っている袋から、得も言われぬ臭いを嗅ぎとったのじゃ。

 儂の直感が、びんびんと感じている。

 儂が袋をじっと見ていると、少女はその袋を右へ左へ動かす、すると儂も右へ左へと視線を動かす。

 グーグーっ。

 儂の腹が、鳴り響く。

「良かったら食べますか?」

 その少女はそっと儂に食べ物を差し出す。

 なんじゃこれは? 

 儂が、

を凝視していると、

「これは東方のアサン皇国で採れるライス()と言うものを手で握った

と言う食べ物です。中の具は確かプラム()ケルプ(昆布)サモン()ですね。そのまま手掴みでお食べ下さい」

 ゴクリ。

 その米? の塊を口に運ぶ。

 美味あああああ~い! 

 美味あああああ~い♪ 

 あっという間に食べ終わった。

 く。

 儂としたことが、我を見失ってしもうた。

 しょぼーん。

「老師! もし良ければですが私の家に来られませんか? そうすれば

がまだありますので、ご馳走しますよ?如何ですか?」

 そんなことは決まっておる。

 儂を馬鹿にしているのか? 

 儂が食べ物で釣られる男だと思っているのか? 

 馬鹿にするな! 

 儂ははっきりと言ってやったのじゃ。

「うん、よろしくなのじゃ」

 るんるんるん。

 その少女の家は、まるで

みたいな家じゃった。

 その家の大きな食堂で

だけじゃなく、他にも色々と今まで見たことのない食べ物を食ったのじゃ。

 極楽じゃ、極楽じゃ、ほんに極楽じゃ。

 それから数十年、その家で世話になっておったのじゃ。

 初めは偶に腹ごなしに棒切れで、色々とその少女と遊んでいたんじゃが、途中から結構な数の者が遊びに加わって来たのじゃ。

 まあ、少女同様にボコボコにして転がして置いたがのう。

 ふむ。

「飯はまだかのう? のう、婆さんや」

「師匠。師匠は独身です。それに俺は婆さんじゃありません。飯は準備万端です」

 ふむ。

 弟子3053号が何か言っておるのじゃ。

 確かジャンなんちゃらかんちゃって名前だったはずじゃが、婆さんと儂が勝手に渾名を付けたんじゃ。

 剣と盾は、儂の弟子の中では一番の使い手じゃ。

 それとこやつの作る飯も美味いのじゃ。

 それから数年して、帝都に儂の家が出来たのじゃ。

 何故かすっごく大きな部屋があるんじゃ。

 そこで毎日、弟子達をボコボコにすると飯が大変美味いのじゃ。

 弟子3050号から、弟子1号の子供をボコボコにするので、弟子3053号を貸してくれだって? 

 嫌じゃ、婆さんの飯は儂のものじゃ。

 え。

 おにぎりに凄く合う辛し明太子って食べ物要りますかじゃと? 

 そんなことは決まっておる。

 馬鹿にしているのか? 

 儂が食べ物に釣られる男だと思っているのか? 

 馬鹿にするな! 

 儂は、はっきりと言ってやったのじゃ。

「うん、よろしくなのじゃ」

 そして、貸した弟子3053号。

 通称婆さんが2ヶ月で返品されて来たのじゃ。

 え。

 子供にボコボコにされた?

 弟子3052号を身代わりにする? 

 ふむ。

 取り敢えずボコボコにしておいたのじゃ。

「飯はまだかのう? のう、婆さんや」

 しかし、その問いに答える者は、床でピクピクしていたのじゃ。

 その数ヵ月後、うん? 

 首飾りが鳴っておる。

 何々、弟子3052号と弟子3050号が喧嘩しているので、

ボコボコにして欲しいだって? 

 面倒臭いのじゃ。

 断ろうとしたら弟子3053号が、

「師匠! 

って食ったことありますか? ボコボコにしてくれたら俺作りますよ? すげー美味いんですよね」

 なんじゃと? 

 それ美味いのか? 

 ふん! 何を言うかと思えば、儂が食べ物で動く男だと思っているのか? 

 馬鹿にするな! 

 儂は、はっきり言ってやったのじゃ。

「うん、よろしくなのじゃ」

 るんるんるん。

 儂は、弟子3052号の家へスキップしながら向かったのじゃ。

 そしたら、弟子3053号・弟子3052号・弟子3050号の3人で遊んでいたのじゃ。

 確か

、ボコボコにするんじゃったのう。

「グっガっ!」

「ブっガっ!」

「やっガっ!」

「しっガっ!」

「たっグっ!」

「だっゲっ!」

 儂は、弟子3052号と弟子3050号をボコボコにしたのじゃった。

 えーと。

じゃったの?

「グハっ!」

「ボゴっ!」

 弟子3053号をボコボコにしながら、こやつをボコボコにしたら、誰が

を作ってくれるんじゃ?

「飯はまだかのう? のう、婆さんや」

 儂の問い掛けに婆さんは、答えなかった。

 まあ、弟子はたくさんいるから誰か作ってくれるじゃろう。

 儂は曾て弟子じゃったものを残して、家に戻ったのじゃ。


 多くの門弟を抱える帝国正流デバック流。

 その門弟全てが創始者を『徘徊する理不尽』と呼んでいるのは、門弟しか知らない真実だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み