第61話 超獣

文字数 1,128文字

 我はアプリオリ。

 古の盟約の獣の1柱、《超獣》アプリオリ。

 ここヘルメゲン平原の主である。

 白き鬣を風に靡かせる我は王であり、守護者である。

 このヘルメゲン平原の平和を乱す者を、我は許しはしない。

 我の本能が告げる。
 
 侵犯者が現れたと。

 ふん! 侵犯者だと! 懲りない奴らだ!

 我はその侵犯者の集団に鉄槌を振り下ろす。

 我の遠吠えが、ヘルメゲン平原に鳴り響く。

 我の遠吠えが、我が王国での戦闘を告げる嚆矢となる。

『我こそは古の盟約の獣の1柱、《超獣》アプリオリなり! 侵犯者よ! 我が王国を犯すとは許さん! 此処がお前達の終焉の地だ!』

 我が侵犯者の群れに、そう告げると唯1人小さき子供が我に近付いて来た。

「こんにちは、初めまして、僕ビクトリアスと言います。今日は突然お邪魔して、ごめんなさい。どうしても欲しい物があって来ました」

 小さき者がそう言うと、ペコリと頭を下げる。

 ほう、礼儀正しき者なり。

 我は唯1人で、我に対峙する小さき勇者に再度告げる。

『我は《超獣》アプリオリ。我は侵犯者に手加減は加えん! 例えそれが弱者であっても我が全力で相手をするのみ! それこそが我が誇りである! いくぞ、小さき勇者よ!』

 我は一瞬で小さき勇者に、肉薄し爪撃を加える! それだけで小さき勇者は消し飛ぶであろう! 

 情け一つ掛けない我の一撃を、小さき勇者は草原の風のように優美に避け我の体に傷をつける。

 グッ! ガハッ! 何! この我に傷を付けるとは!

 この地を守護して千数百年、我に傷を付けた者は皆無。

 面白い! 面白いぞ! 小さき勇者よ!

 我は好敵手の出現に打ち震える。

 一昼夜に及ぶ激闘にも遂に幕が降りる。

 ぐっ! 馬鹿な! 何故、我の攻撃が当たらん?

 朦朧とする意識の中、我は己以上の強者との初めて出会いに打ち震える。

『我を此処まで追い詰める小さき勇者よ! お主は一体何者なんだ?』

 小さき勇者は双剣を構えながら、何故か恥ずかしそうにビシッとポーズを決め、

『僕が“何者”だって? 僕はアプリオリ! お前の願いを叶える者だ!』

 ぐっははははは! そうか! 我が願いとは、我よりも強き者との戦い!

 最後に我は、小さき勇者に強さの心得を問う。

時も戦っているからかな?』

 常在戦場...か。

 我が生涯唯一の好敵手よ! お主と共にヘルメゲン平原を駆けたら、心地良いだろうな...。

 我の意識はそこでなくなった。


 翌日、ヘルメゲン平原を駆ける白き獅子の背に乗るエルフの少年に、黒き虎が憤慨していた。
 
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