第13話 友(1)

文字数 1,754文字

 私はエルバルト・ナインテール。

 曾て、無職と呼ばれた偉大な職業に就いていた者だ。

 嫌だ。無理だ。働きたくない。

 ...そう言えば何時からだろう。

 ゴロゴロせずにいられなくなったのは。

 小さい子供の頃は、親友のジャンクスと一緒に遊び、一緒に剣術を極め、一緒に夢を語り合っていたのに。

 ああ。あれは確か、父が

で急逝した頃からか。

 

何もしたくなくなって、日がな一日中ボーとしていたな。

 父が亡くなったことが引き金なのか?

 父はエルブリタニア帝国の法衣貴族。

 伯爵の爵位を持ち、帝国護剣の一剣『酔剣』であった。

 この名称は、使い手の特性から名付けられると父が言っていた。

 只、父が酷く酔った時に帝国護剣には、隠された称号が7つあるって言っていた。

 それはついぞ教えて貰えなかったが、私が帝国護剣の一剣『双剣』に任命された時に解った。

 

は正しく私の為にあるような称号だった。

 その称号で帝国護剣の仲間から呼ばれるようになると、一層普段の日々のゴロゴロに拍車が掛かった。

 しかし、

ゴロゴロしている方が体の調子が良かった。

 普通は鍛練せずに怠けると

が落ちるものだが、

数段強くなったのは私の勘違いではない。

 まあ。

 何もせずにゴロゴロできるなら、大したことではない。

 そんな私のゴロゴロをぶち壊した親友のせいで、現在偉大な職業から

退いている。

 エルブリタニア帝国第3皇子。

 ビクトリアス・エルブリタニア殿下。

 私の唯一の弟子。

 僅か数ヵ月で、私の全ての技を習得した双剣の天才。

 後は経験を積めば、私をあっと言う間に追い抜くだろう。

 しかし、剣術指南役の役目は引き続いており、毎日1時間の真剣を使っての掛かり稽古でもその実力が上がってきている。

 何故だろう? 嫌なはずなのに、何故か楽しい。

 嫌なはずなのに、何故か心が躍る。

 殿下は不思議な方だ。

 いつかしか殿下の成長を我がことのように感じる私に驚愕する。

 まあ。

 なるようになるだろう。

 あるがままに受け入れるのも一興。

 はあ。もう一眠りするか......。

 殿下から魔法学園と騎士学園のどちらに進学するか尋ねられた。

 そろそろそんな時期かと思った。

 殿下の行きたい方へ行けば良い。

 例えその道が間違っていても自分で決めた道だ。

 大いに後悔すれば良い。

 人生に

はない。

 それも経験だ。

 だから殿下の行きたい方が正解だと伝えた。


 ある朝、隠剣が私に会いに来た。

 ああ。

 私と死合いに来たと、直感した。

「怠惰よ。その命貰い受ける」

 静かにそして、激しい

を内に秘めた隠剣がそう私に告げる。

 そうか。

 まあ、いいさ。

 お前が望むなら、理由など大したことではない。

 では参ろうか。

 あ。

「隠剣...(ズラ)()れてるぞ」

 隠剣はまるで何事でもないように自然に(ズラ)を直し、

「何故、殿下が

決断を下したんだ? 怠惰、お前が原因だろう?」

 うん? 進路のことか。

 魔法学園と騎士学園。

どっちでも大した問題はないだろう?

「殿下が何を選ぼうと自由だからだ。殿下が己で選んだ道だ。臣下なら力を貸してやれ」

 隠剣の目の色が変わる。

「やっぱりお前だったか! 怠惰!」

 ふむ。こんな隠剣を初めて見る。

 傲岸不遜、唯我独尊な何事にも動じない隠剣が、うちに抱える

に焦れている? 

 ふふふふふ。

 何故か笑いが込み上げてくる。

 愉快、愉快。堪らんな。

 こんな隠剣が見られるとは。

 ニヤり。

「ああ、

。待つのに飽きた、来い! 隠剣!」

 帝国護剣の一剣、『双剣』にして称号『怠惰(たいだ)』を持つ私が、帝国護剣の一剣、『隠剣』にして称号『傲慢(ごうまん)』を持つ

が、望むのならば死合うのに何の躊躇いがあろうか......いざ! 推して参る!
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