第112話 化物皇子

文字数 1,891文字

 儂はダロス・アジタート。

 アッバース王国、巨神(タイタン)騎士団の団長をしている。

 儂の剣は、アッバースの剣。

 故に曇り無きように日々、己を磨き、剣を研ぎ、心を鍛えた。

 しかし、それ故に若い頃のように気儘勝手に振るうことは出来ない。

 アッバースの“正義の剣”の一振りが儂なのだから...。

 正義とは、それぞれの立場に於いて異なるもの。

 何を悩むことがある? 儂はアッバースの剣、剣は考えない! 只、その力で敵を打ち倒すのみ!


 今日は厄日だった。

 見知らぬ旅の一団が我が家の門を叩いた。

 儂の家に来る者など騎士団員以外いない。

 その騎士団員達も実戦経験の為に参加したミダス王国攻略戦での活躍もあって、現在は特別休暇を与えている。


「失礼します! ダロス・アジタートさん、お話があって来ました!」

 ふむ、子供の声が聞こえる。

 だがしかし、この(プラーナ)は只者ではあるまい。

 否、圧倒的な気の内包を感じる! その数、11個体!

 それとは別に3個体いるな! 何者だ?

 儂は常在戦場の理を以て、普段からいつも戦場に立てるようにしている。

 儂は戦斧を握りしめ、鎖帷子を鳴らしながら玄関の扉を開けた。


「何者だ、お主達? 只者ではない気を纏っているな?」

「こんにちは、初めまして僕ビクトリアスと言います。今日は突然お邪魔して、ごめんなさい。ダロス・アジタートさん、貴方を勧誘に来ました!」

 は? 儂の名前を知りながらの“さん”付けとは、このエルフの小僧は何者だ?

 儂を勧誘に来た? 儂、...この国の騎士団長なんじゃが?

 正気か小僧? 小僧の紅玉の瞳を見詰め、相手の正気を確かめる。

 ふむ、正気も正気、本気だな...小僧。


「はっ? 何を言っているのだ、お主。俺はアッバース王国の騎士だぞ?」

「はい、存じています。そこで、“正義の審判”をお願いします!」

 な、何じゃと? 正義の審判だと、...まさか、この小僧ではあるまいな?

「はっ? お主がか? それとも他の者がか?」

 儂は唖然となりながらも、この小僧が相手では無いことを祈った。

 確かに内包している気は、見るべきものはある。

 しかし、所詮はエルフの小僧だ。

 真っ当な武力でのぶつかり合いで、儂に勝てる筈も無い。


「勿論、僕ですよ! よろしくお願いします!」

 ニッコリと微笑むエルフの小僧は、儂にそう言い切った。


 アッバースの誇りとは、正義であり、力であり、強さである。

 力なき正義は、正義に非ず。

 “正義の審判”と言われる決闘に勝った方の言い分に従う、古からのジャイアントの掟がある。

 どんなに理不尽でも、その決闘の勝者こそが正義であると言う、古くからのジャイアントの自己証明の儀式である。

 くっははははは! 何十年振りだろうか...“正義の審判”を儂に挑んで来る強者は!

 良いだろう! その決闘を受けよう!

 儂はダロス・アジタート。

 アッバース王国、巨神(タイタン)騎士団の団長だ!

 エルフの小僧に恐れを為す筈も無い!


「グッワァァァ! グッフッ!」

 ば、馬鹿な! この小僧、化物か?

 儂の戦斧の一撃を軽く往なし、小僧は軽やかに双剣を操り、儂の急所に攻撃を加える!

 く、糞! 儂の攻撃が当たらん! 

 ええい、ちょこまかと。


「はっ、はっ、はっ! すばしっこい奴だ!」

 かれこれ1時間は体感で戦っている!

 この小僧、化物か?

 未だ未だ、底が見えん!

 仕方ない、儂の殲滅技で仕留めてくれる!


「ウォォォォォ~!」

 儂は戦斧を小僧の前面の地面に、魔力と気を混ぜた魔闘気の一撃を振り下ろす!

 これでお仕舞いだ、小僧!

「はっ!」


 え? 

 え?

 こともあろうに、エルフの小僧は儂の必殺の一撃を、呼気で跳ね返した!

 そして、儂の延髄に強打を加えた!

「ブッハァァァァァ~! グフッ!」

 儂は消えゆく意識の中で、エルフの小僧に問い掛けた!

「お、...お主は、一体何者なのだ?」

 するとエルフの小僧は恥ずかしそうビシッとポーズを決めて、こう言った!

「僕が“何者”だって? 僕はダロス・アジタート、お前の願いを叶える者だ!」


 遠い昔、儂が子供の頃に親父に「将来は、何に為りたい?」と聞かれ、儂はこう答えた。

「弱気を助け、強気を挫く、正義の英雄(ヒーロー)に為りたい!」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み