第103話 アーク傭兵騎士団

文字数 1,380文字

 私はウルクル・ウェンブリ。

 アーク傭兵騎士団の副団長です。

 我らアーク傭兵騎士団は、元々ミルテッド・クローマ様に付き従った者達の末裔を主軸に構成されています。

 この度のクローマ王国再興は、我らにとって悲願でした。

 しかし、我が主であるミドデルス・クローマ様は、今回の戦いには反対の立場を取っていました。

 何故なら、西方三国の行く末を見守ることが、我が主の使命だったからです。

 では何故、我らはその主の意志に反して行動しているのか...。

 それは、永年に渡ってクローマの系譜に仕えて来た先祖の悲願であり、宿願だったからです。

 私達は祖父や曾祖父から、クローマ王国の分裂に置けるミルテッド様の想いを聞かされていました。

 アッバース王国では、ミルテッド様は“高潔な魂”と呼ばれています。

 確かに行いは高潔であったと私も思います。

 しかし、私ならば王位継承の第一位であり、実力があったのならその力を行使してクローマ王国を治めるべきだったと幼き頃から思っていました。

 祖父や曾祖父に、子供ながらに問いかけると憂いを含んだ目で私を見詰めこう言われました。

「ミルテッド様には統治の力が確かにあった。只、あの方には為政者として決定的に足りない物があった。それは、優しすぎた性情に起因する。為政者には時には取捨選択しなければならない時がある。それが三国分裂の時であった...」

 祖父と曾祖父は、昔から語り継がれている話を私に丁寧に教えてくれた。

 優しいが故に国を分裂させた?

 私は違うと思った。

 それは逃げだと思った。

 私ならば、...そう夢想した。

 ミルテッド様には、力があった。

 だからこそ、アッバース王国の先人達はミルテッド様を認めクローマ王国再興の誓いをミルテッド様の亡骸に誓ったのだ。

 力があったが、その力を使う覚悟がなかったと私は思う。

 人は誰でも良い人でありたいと思う。

 人に好かれたいと思う。

 しかし、為政者とは孤独であると思う。

 嫌われても、非難されても国を第一義に考えるのが為政者である。

 ミルテッド様は国よりも、家族の情を取った。

 そして、その一点のみで他の3兄弟に劣っていたのだ。

 もし、私がその場に居たなら、迷うことなく3兄弟を無き者にしただろう。

 主の為なら、私は泥でも何でも被る覚悟がある。

 この度のクローマ王国再興も、我が主は望んでは居なかった。

 だが、我が主に疎まれようとも私達は遣り遂げた。

 アーク傭兵騎士団は、この時の為にその武を高め磨き雌伏していたのだ。


「副団長、急報です! リゲル国軍が例の第一等命令の対象に攻撃を加え、敗走しました!」

 な、何だと? 接触禁止命令を態々出した対象に攻撃を加えただと?

 リゲル国軍は阿呆なのか!

 え、リゲル国軍からは報告が上がって来てないだと!

 急報は我らが眼である諜報機関『音』からだった。

 隠蔽する気か? 愚かなリゲル国軍め!


 この時は憤りしかなかった。

 しかし、この愚かなる行いが地獄への序章だとは誰も露とも思わなかった。

 只、団長の「藪を叩いて蛇を出す愚を犯しては為らない」と言う言葉が、私の脳裏に棘のように引っかかっていた。
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