第84話 元老院

文字数 1,545文字

 我はマルグス・エルヴィス。

 エルブリタニア帝国侯爵であり、元老院の貴族派の1人である。

 エルブリタニア帝国には、元老院と言う皇帝を支援する盤石な統治機関(システム)が存在する。

 この元老院は皇帝支援機関でもあるが、次代の皇帝選出機関でもある。

 故にその構成員は、皇族派・貴族派・中立派から各3名づつ選出されている。

 現在の皇帝陛下は、アリトリアス・エルブリタニア陛下であられる。

 稀代の戦乙女と言われる陛下に率いられた我ら帝国は、着々とアルグリア大陸統一を目指して領土拡張中である。

 だがしかし、現状は非常に困難な局面を迎えている。

 現在、我が帝国は帝国西部に位置するリグレス王国を侵攻中である。

 侵攻作戦が開始されたと同時に、我らエルフ族の不倶戴天のダークエルフ族の国であるギエロア大王国の暗闘が発覚したのである。

 事もあろうに第1皇女ローゼティアス・エルブリタニア殿下を弑し、その罪を第2皇子殿下の父君の実家であるクロース公爵家に擦り付けようとしたのだ。

 何故それが発覚したかと言うと、そのギエロア大王国の暗殺集団の上位者達を根こそぎ捕縛したからである。

 今回の実行部隊の首魁である猿命(アフレブン)は、ギエロア大王国の大王直属の暗部機関『(アフ)』の統括者である。

 そして、その手足と為って活動していたのが暗殺組織『闇の牙』と、その下部諜報組織『闇の眼』であった。

 大王ベルナルド・ギエロアからの勅命である証拠もあり、また『猿』・『闇の牙』・『闇の眼』の各組織の首謀者達が一網打尽にされて自白もある。

ギエロア大王国を侵攻する大義名分が出来たことは、非常に喜ばしいことである。

 しかし、時期が悪いのだ。

 女皇帝陛下は激怒しており、己が率いる騎士団《クリムゾンソード》のみでの出撃を主張されている。

 だが、元老院としてはそれを認めることは出来ない。

 一時の感情で、帝国の剣を動かすことはあってはならないからだ。

 たった1人の皇女殿下を狙われた女皇帝陛下の気持ちも解る。

 しかし、帝国の行動は、帝国の利を持って為すのが必定である。

 故に現在、非常に困難な局面を迎えているのである。


 只、今回の捕縛劇を演じた主演が、

殿

だとは一部の者達以外が皆驚きを隠せなかった。

 上のお二人の兄君達であるならば、実力と実績があるので納得出来る。

 されど、引き籠もりの根暗と噂されていた第3皇子殿下が、第1皇女殿下を救うとは...と皆思っているであろう。

 相手は暗殺組織の猛者500余名だと報告にある。

 それを第3皇子殿下率いる数名の集団で、鎮圧したことは異常である。

 それに、警護騎士団100余名は1度全滅したと報告にある。

 では何故、無傷で帝都に帰還している? 

 その答えを聞いて我は卒倒した。

 エリクサーだと? 確か第四代皇帝陛下が皇后殿下の為、天文学的金額で手に入れた幻の万能薬だぞ。

 それを、騎士団員とメイドを蘇生させる為に惜しげも無く使用したと報告書にあった。

 これは、第3皇子殿下から詳しくお話を伺わなければならない。


 次代皇帝候補として、第3皇子ビクトリアス・エルブリタニア殿下は、我ら元老院の9名は以前から注目していた。

 初代皇帝陛下のみが持ち得た『紅玉の瞳』を持つビクトリアス殿下を、我を始め元老院が見極めなければならない。


 覇王の瞳と言われる紅眼を持つ12歳の少年。

 我が仕えるエルブリタニア帝国の明星と為るか、否か。

 我はマルグス・エルヴィス。

 元老院の一員であり、帝国の忠実なる僕である。
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