第101話 デネブ王国

文字数 1,616文字

 我はカリオン・デネブ。

 デネブ王国の国王である。

 この度の西方諸国連合軍に於いて、我が国はミダス王国をシリウス王国と共同で当たる。

 さて、ミダスの糞野郎め! 今までの恨み晴らさせて貰うぞ!


「申し上げます! 我が白鳥騎士団及びミダス侵攻軍が、ミダスの金薔薇騎士団を撃破しました!」

 くっくくくくく。

 流石のミダスの精鋭騎士団も、搦め手の攻撃には弱いと見える。

 アーク傭兵騎士団か、...アルグリアの紛争が在るところに出没すると噂される傭兵団。

 その傭兵団が味方した陣営に未だ負けは無いと聞く。

 その団長であるドリトス・トルクス。

 奴の策を聞いて、我は戦慄を覚えた。

 そこまで、するのか?

 否、そこまでしなければ金薔薇騎士団には勝てないと言うこと。

 件の団長の策は、至極簡単であった。

 戦いの場を選定して、そこに誘い込み、殲滅する。

 ミダスの金薔薇騎士団2000に対して、我がデネブは5000を配した。

 戦場に選定したテゴス平原に隣接するライ川の水を流れ込ませ、即席の湿地帯にする。

 それは金薔薇騎士団の騎馬の機動力を奪った。

 機動力のない騎馬兵団など我が軍の的でしかなかった。

 我が白鳥騎士団1000以外の兵は全て弓兵。

 金薔薇騎士団に雨の如く降り注いだ矢に依って、勝敗は決した。

 そして、虫の息の金薔薇騎士団を白鳥騎士団が討ち取った。

 聞けば簡単な策であるが、肝はミダスの斥候を全て始末しこちらの情報を一切漏らさないことだった。

 それ故、その為に市井の諜報組織も組み込み、アリの這い出る隙間も無い布陣を敷いた。

 情報の大切さを懇々と我に説いたドリトス・トルクスの目を我は忘れない。

 あの全てを見透かすが如く、盤面の駒を操った男。

 危険な男だ。


「申し上げます! 白鳥騎士団が敗走しました!」

 はっ? どう言うことだ! 西方三国は既に落ちているんだぞ?

「白鳥騎士団が接敵した相手は、エルブリタニア帝国第3皇子の一行です! ミダス王国の治安維持中に戦いになり、白鳥騎士団は敗走しました!」

 なっ! 確か第3皇子には接触禁止命令が出ていたと聞いたが...。

「治安維持行動中に、件の第3皇子とは知らずに交戦となったようです!」

 くっ! 不可抗力ならば致し方ない。

「但し、損害は軽微で死者はいません!」

 えっ! 敗走するほどの戦いで死者がいないだと?

 えっ! 気絶させられて放置されていただと?

「西方諸国連合軍本部の対応は如何した?」

 えっ、そのまま接触禁止令が出たままだと?

 何故だ、アッバースの軍に敵した相手だぞ?

 一体何を考えている...ドリトス・トルクス。

 名誉を重んじるアッバース王国の尖兵。

 うん? 我は何か見落としているのか?


 その後、西方諸国連合軍に参加した6カ国全ての精鋭軍が、件の第3皇子に依って敗走させられた。

 否、リゲル王国軍だけは違った。

 一度敗北した後に再度敵対して、殲滅されたのだ!

 これは、我ら西方諸国連合軍に対する第3皇子の意志!

 “二度目は容赦しないぞ!”と言う意思表示だ!


 ゴクリ、アッバース王国は如何するのだろうか...。

 正義の剣を標榜するアッバースに敵対したエルブリタニア帝国第3皇子とは、一体何者なのだろうか?

 そして、リゲル王国からの報告にあった件の第3皇子の“お忍びの旅”とは、何の冗談なのだろうか...。

 お忍びの旅をする者が、西方諸国の精鋭軍を撃破する訳はないのだから...。

 アッバース王国とエルブリタニア帝国との戦争が始まる...。

 その苛烈な戦争に、我が国も参加しなくてはいけない現実に、第3皇子の一行はたった十数人と言う事実に...我は、不覚にも意識を手放した。
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