第175話 毒は躍る?

文字数 1,233文字

 我輩は、フェルミルダ・ミクリエールス。

 栄えあるミラダモリス王国の伯爵であり、国軍の大将軍でもある。



 今回サダリモリス領で原因不明の住民の大量死が起こり、疫病かと陛下も御心を痛められていた。

 そして、非常に残念だがサダリモリス伯爵が其の原因究明中に身罷った。

 其れも苦しみながら。

 某かの毒物か、病の類いか?

 原因が解らないことには、対策のしようがない。

 其処で我輩に原因究明の任が降ったのだが。



「閣下、魔物達も苦悶の表情で息絶えております! 此の侭前進して宜しいのですか?」

「待て、治癒師を呼べ! 其れから魔物の亡骸を一体持って参れ! 良いか、布で口を覆い、素手では触るな! しかと申しつけたぞ?」

「はっ!」

 ふむ、サダリモリスの住民の亡骸からは毒物が検出出来なかった。

 魔物の肉を食べさせてみるか、小鳥を数羽持って来ている。

 此れは採掘現場での転ばぬ先の杖。坑道では突発的に毒が発生する。

 其の毒は無色無臭で、籠に入れた小鳥を先頭に持たせ進ませると。

 身体が小さい分、毒が発生していれば直ぐに解ると言う仕組みだ。

 はてさて、一体如何なるのか。

 疫病ならば、残念だが住民の移動制限などの措置を執らねばならん。

 勿論、我らも此のサダリモリスから動くことまかりならん。



「治癒師でも原因は解らんか、・・・・・・」

「では、魔物の血を含ませた穀物を小鳥に食べさせろ」

 我輩の目の前で、小鳥が穀物を啄む。

 なっ!?

 小鳥は身体を震わせたかと思うと、コテッと動かなく為った。

 死んでおる。



「此れは毒かと。疫病の類いならば食して直ぐに亡くなることはありますまい」

 治癒師の一人がそう我輩に進言する。

 では問題は、何から毒を身体に取り込んだかだ。

 毒を吸い込んだか、其れとも毒物に汚染されたものを喰ったか。

 

「斥候部隊を編成する! 小鳥を先頭にゆっくりと進め! 治癒師も同行しろ! 良いか、くれぐれも異常を感じたら先ずは戻って来い! 良いな?」

「はっ!」

 ふむ、初手はこんなものか。

 はてさて困ったのう。

 毒を吸い込んだと為ると厄介だぞ。



「閣下、斥候部隊から連絡が! しかし、伝令は辿り着いて少しして、徐々に苦しみだし息を引き取りました!」

 な、何だと? 毒を吸い込んだか?

 此れは困った事態だ。

「伝令は何か言ってなかったのか?」

「はっ! 小鳥が亡くなったので斥候部隊は後退を始めた模様。伝令は其の時に隊を離れたよしに御座います!」

 ふむ、此の様子では斥候部隊も、・・・・・・

「全軍後退する! 急げ!」

 見えない敵と何の策も無しに戦えるか。

 其れが毒であっても、病であっても、魔物であっても。







 我輩は、フェルミルダ・ミクリエールス。

 此の部隊の者達の命を預かる者じゃ。
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