第126話 師匠と弟子

文字数 1,342文字

 私はアイスナルド・ゼークド。

 イルガリア王国の伯爵にして、軍権を預かる将軍である。


「閣下、陛下からの登城要請が来ております。おそらく、ガルバルバ殿下の件かと!」

 副官は私とガルバルバ殿下との関係から、私の身を案じているのであろう。

 ガルバルバ・イルガリア殿下、...イルガリア王国第1王子にして、私の剣の弟子。


「お呼びに依り、ゼークド参上いたしました」

 私が陛下の御前で参上の挨拶をすると、陛下は憂いた瞳で私を見つめ苦悶の言葉を発した。

「ゼークド卿よ、お主にしか頼めない事態が起こった...」

 陛下、(いや)幼き頃から切磋琢磨した我が友。

 その表情からも、言葉の端々からも陛下の苦しみの心情が窺える。

 我が友は、私にすら心情を明かさない。

 それは、私を信用していないのでは無く、私の身を案じてのことだ。

 世の中には、知らない方が幸せなことなど沢山あるのだ。

 知れば考え動く者も出てこよう、...陛下の意図しない忖度で、悲劇が起こらないとも限らない。

 我が友は、イルガリアの国民に己の命も含め、全てを捧げて奉仕している。

 陛下を知らない者は、王の責務の過酷さを知らない。

 私は知っている、幼き時から共に育った親友の心の内を。


「陛下、私に対しては...只、お命じ下さい」

「...ゼークド卿。否、我が友アイスよ! お主には我の息子を討ち取って貰わねばならない」

「御意、ガルバルバ殿下の反乱の件。存じ上げております!私めに、お任せあれ...」

「反乱軍を殲滅しろ! 首謀者の生死は問わん! 行けゼークド卿!」

 私は我が親友の憂いを取り除かねばならない。

 喩え、それが親友の息子であっても、それが私の愛弟子であってもだ。


「はっ!」

 私は陛下の御前を辞し、イルガリア王国軍を出撃させる。

 殿下の反乱軍が、凡そ500。

 私の弟子が、馬鹿な訳がない。

 師匠の欲目ではなく、これは事実だ。

 では何故、...殿下はたった500ほどで反乱を、それも王政を廃し共和政などと宣言したのか?

 大きな策略、陰謀か何かを感じる。

 私はイルガリア王国軍15000を王都に待機させた。

 私が殿下を討伐に向かっている間に不足の事態が起こると読んだからだ。

 私は配下の将に策を授け、王国軍2500を率いて出発した。


「閣下! イルガリア各地で反乱が発生しております。閣下の読み通りになりましたな? 今頃は個別に鎮圧軍が向かうでしょう!」

 副官の報告を受けた私は、無言で了解の意思表示を示した。

 間もなく、殿下の立て籠もるヒカノ城砦だ。

 果たして、如何なる罠が仕掛けられているのか?

 この巧妙な仕掛けは殿下のものではない。

 それは師匠である私が一番理解している。

 この反乱には影の首謀者が存在するはずだ。

 陛下を心から尊敬していた殿下が、陛下を廃して王政を否定するとは、余程のことがあったはずだ。

 しかし、如何なる理由があろうとも、イルガリア王国に剣を向ける者を、私は排除する。

 
 私はアイスナルド・ゼークド。

 イルガリア王国の守護騎士だ。
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