第44話 暗殺者

文字数 1,740文字

 俺はサミュエル・ガトー。

 暗殺組織《闇の牙》の超一流の暗殺者(ヒットマン)だ。

 今回の目標(ターゲット)は、エルブリタニア帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニア殿下。

 クッククククク。

 面白い、腕が鳴るぜ。

 何でも目標(ターゲット)は、物見遊山の旅に出ているらしい。

 クッククククク。

 間抜けめ、ごっつぁあんです。

 クッククククク。

 笑いが止まらんぜ

 ふむふむ、え? いやいや、いや。

 え、マジか? 俺達の組織の諜報担当である《闇の瞳》からの報告に俺は突っ込みを入れる。

 アルバビロニアの帝都プロローズからアクリス王国に入り、ハルベルト山脈を目指して進んだらしい。

 え、十の災厄(アンタッチャブル)の縄張りに入るんじゃあないよね? 

 え、入った? 阿呆なの? 馬鹿なの? ヤバい奴なの? 俺の目標(ターゲット)は!

 もちろん、闇の瞳はハルベルト山脈には入らない。

 いや、入れない。

 十の災厄(アンタッチャブル)の恐怖を知らない奴はアルグリア大陸にはいない。

 誰もが悪さをすれば親から十の災厄(アンタッチャブル)に食べられるよ! って脅され諭され躾られる。

 俺には親はいなかったが、盗みが失敗して大人にボコられた時、(オーガ)みたいな大人が青褪めて俺に言うんだ! 俺みたいな奴は十の災厄(アンタッチャブル)に食べれるぞって。

 流石の俺も怖くなって盗みを止め、暗殺組織に就職した。

 それがアルグリア大陸の一般的な子育て()仕組み(システム)だ。

 俺は今回の仕事はもう達成出来ないと思った。

 十の災厄(アンタッチャブル)の縄張りに入って生きて帰って来た者はいないからだ。

 え、出てきた? ハルベルト山脈のマルカ王国側からだと! すげぇな闇の瞳...お前らすげぇよ。

 え、アサン皇国へ向かってる? ゴクリ。

 違うよね? 違うと言ってよ! 闇の瞳! え、多分...霊山“不死山”に向かってるだと? 

 この俺の超一流の第六感(勘ピューター)が盛大に警告音を鳴らしている。

 え、止めた方が良いんじゃあないかって? お前良い奴だな、闇の瞳。

 グス、これは涙じゃない。

 汗だ、グス。

 俺は悩む。

 どう考えても俺の手に負える目標(ターゲット)ではない。

 え、次はガイエス王国に向かってる? 彼処って...マリエンテ内海。マジか! 《海竜》リヴァイアサンか! 

 え、次はフューダー大王国? 華厦山の《白猿》か...十の災厄(アンタッチャブル)を巡る物見遊山って、マジでヤバい奴じゃあねえか!
 
 え、本部から早く始末を着けろって? ほほう、俺に死ねと? 俺以上の暗殺者は俺は知らない、俺に出来なければ誰も出来ない。

 良し! 足を洗おう、そうしよう。

 こんなヤバい目標(ターゲット)を狙って俺が生き残ってる訳ないしな。

 それなら亡くなったつもり俺の小さい頃からの夢を叶えよう。

 小さい頃は、誰も頼れる人がいなくて、いつも腹を空かしていた。

 初めて食べたパン旨かったな。

 それが俺の初めての盗みだった。

 お腹が減って、饑じくて、辛くて、キツくて、涙も渇れたあの頃。

 何時か旨いものを一杯喰ってやる、そして何時か旨いものを一杯創ってやる。

 それが俺の夢になった。

 え、闇の瞳? お前も俺に付いてくるって? おいおい、おい。

 組織を抜けるってことは一生追われる身になるんだぞ? 

 え、俺となら良い夢が見れそうだって? クッククククク、フッハハハハハ! 

 最高だな、闇の瞳! え、サラって名前で呼べ? お、おう。

 サラ、行くぞ先ずは旨いものは旨い材料がないといけない。

 ベニアス王国へ行くぞ! あそこは食べ物で溢れてるからな!


 後年、ベニアス王国の王都ヘテナは“美食の都”と呼ばれるようになる。

 そして、高名な調理人の言葉がヘテナ大公園の石碑に刻まれている。

 “美食は1日にしては成らず”その言葉を後世に残した調理人の名は《サミュエル・ガトー》と言う。
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