第17話 アリス

文字数 1,781文字

 妾はアリトリアス・エルブリタニア。 

 第8代エルブリタニア帝国女皇帝である。

 そして、4人の子持ちでもある。

 父親ごとに子供を上手く産み分けたが、時代の皇帝選出は熾烈なものとなるであろう。

 まあ、なるようにしかなるまい、帝国の支援機関『元老院』が皇帝を選出決定する為、妾の意見など全く関与の余地がない。

 元老院は9名の元老からなる、皇帝派・貴族派・中立派から各3名づつ就任する。

 4人の子供達は皆元気に育っているが、父親の家・派閥とが密接に関係しているので、妾の関与する余地は殆どない。

 まあ、悲しくない寂しくないと言えば嘘になるが、エルブリタニア帝国女皇帝とは、家族の情を挟む余地がない責務なのである。

 子供達には恨まれるだろうが、帝国臣民の安寧と繁栄の為に生きるのが、妾の使命なのである。

 妾が小さい子供の頃は、割りと自由にしておったが、今の妾の状況と子供の時の状況の差が酷いな。

 くくくくく。

 妾は子供の頃から剣術では、誰にも負けない神童と呼ばれていた。

 まあ、先生方が忖度していたのかも知れんがな。

 その頃から妾の耳には、

が入っていたが、まさかそんな者がいるはずないと気にも止めていなかった。

 それから数年経って、

の主がこともあろうに、帝国皇帝の召喚を無視したとの話も舞い込んできたが、それこそ眉唾だと気にも止めていなかった。

 また数年経ってから父上、時の皇帝から数年前の

の顛末を聞き驚愕した。

 一部の跳ねっ返り共が、

の主を不敬だと、誅しに最初は十数人、次は数十人と最後には数百人が襲い掛かったが、全て返り討ちにあったと言うのだ。

 まさか、

が本当のこととは、妾は露とも思っていなかった。

 その

とは、世界樹(ユグドラシル)の森に住んでいる、エルフの仙人がいるとのことだった。

 世界樹(ユグドラシル)の森には、凶暴な魔獣が生息しており、何でも

竜も生息している、人智が及ばない聖域(サンクチュアリ)だからだ。

 その聖域に住んでいるなど、端から信じられなくても仕方ないことだろう。

 妾は子供故の気軽さで、その件の仙人に会いにいった。

 会った仙人は、どこから見ても只の爺さまだったが、周りで息絶えている魔獣の死体が、只の爺さまではないと語っておった。

「老師! 私を弟子にして下さい!」

 私の言葉に何も感じなかったのであろう。

 老師は小柄な身で、魔獣の死体を魔法袋(アイテムバック)に仕舞い立ち去ろうとした。

 しかし、何故か私の肩掛け袋を凝視して、グーグーっと、腹の音が鳴り響いた。

 私がその袋を右へ動かすと右へ、左へ動かすと左へ老師の視線がその袋を見詰めて離さない。

「良かったら食べますか?」

 老師は、美味しそうに袋に入っていたおにぎりを食べ終えると、名残惜しそうに手に付いていた米粒を啄んだ。

 しょぼーんとした老師に、私は思わず言ってしまった。

「老師! もし良ければですが私の家に来られませんか? そうすれば

がまだありますので、ご馳走しますよ? 如何ですか?」

 老師は好好爺とした雰囲気から、(オーガ)の形相で私を睨み付けた。

 しまった、やってしまった。

 老師の弟子にして欲しいと言う者が、こともあろうに食べ物で老師を釣るような真似をしてしまった。

 私は己の思慮の浅さに恥じ入った。そんな私に鬼気迫る様子の老師が言い放った。

「うん。よろしくなのじゃ」
 
 それから数十年、老師は帝城に住み妾達門弟に

稽古を付けて頂いた。

 近年は、城下に道場を建てさせて頂き老師は移り住まわれたが、妾にとっては掛け替えのない思い出であった。

 後にも先にも、妾を彼処までボコボコにした者は老師以外居られん。

 うん? 

 アレサからの

文が届いたか。

 何々、くくくくく。

 相変わらず面白いの、ビズは。


 紅玉の瞳を持つ妾の第3子。

 初代皇帝と同じ紅眼遣いである、

 

運命(さだめ)の我が子よ。

 今のうちだけだぞ、限られた自由を楽しめ。
 
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