第121話 タックロ王国

文字数 1,383文字

 我はピグミル・タックロ。

 タックロ王国の国王である。

 我が国は元々、風精霊人(シルフィ)の一部族であった。

 我が祖先がシルフィの自由を愛する気風に反して、シルフィの為に建国した国である。

 勿論、隣国であるイルガリア・ノリス・グトネス・ダブリン・ゲオア・ピクルもシルフィ族であった。

 自由を愛するシルフィ族にも、掟は存在する。

 自由を守る為には、不自由な掟も必要である。

 掟が無ければ無法と化し、秩序も無く崩壊する。

 そんな経験を積んだ祖先が敢えて掟を決め、遵守し、シルフィ族の繁栄の為に同族に嫌悪された。

 自由とは、不自由さの中にこそ存在する。

 シルフィ族の先達の言葉だ。

 自由気儘に振る舞うことは自由ではない、掟と言う不自由があってこそ自由が生まれる。

 人が集まれば規律が無くば、混沌とした世界になる。

 混沌を自由と崇めるシルフィもいる。

 それも、また自由である。

 先達は言った、『人に迷惑を掛けないならば、その自由は尊重してしかるべきだ』と。

 自由を愛するシルフィ、...先達も自由に生きたかったはずである。

 王とは、孤独である。

 王の言動一つ、王の挙動一つ、全てが決まる。

 我の想いは、明かしては為らぬ。

 明かせば忖度が起きる。

 我は命じていないぞ? 我は望んでいないぞ? 

 只、楽になりたかっただけ...。

 我の想いを、明かすことは災いとなる。

 くっ、全てを投げ出して自由になりたい。

 それは楽になりたいと同じことなのか?

 我の人生はたった一度切り、それを自由に生きてみたい!

 ふっ、儚い夢よ。

 我は王なり、連命と続く血の一滴までもが、我の想いを許さない。

 孤独こそ我が友であり、隣人であり、我が愛すべきものである。

 先達が自由の為に己が受け入れた不自由。

 我が国の繁栄の為に己が受け入れた孤独。

 その孤独と言う痛みが我を導く。

 シルフィの自由の為に、我は孤独を愛そう、痛みを愛そう、そして己を愛そう。


「申し上げます、陛下! パルム王子、乱心! 王宮で反乱が起こりました! 何でも王政を廃し、民政を敷くと申されているよし! ここも安全ではありません、何卒ぞの玉体をお移し下さりますよう、臣は願います!」

 近衛長が、そう我に申す。

 ふっははははは! 反乱だと? 我が息子がだと?

 王政の廃し? 民政を敷く?ふっははははは!

 そうか、それがお前の想いなのか、パルムよ!

 我は王なり、全ては我の責なり。

 全て在るがままを受け入れ、我は全てのを愛そう。


「よい! 我はピグミル・タックロ。タックロの王なり、息子が我に異を唱えるならば、我はそれを聞こう! それが国王としての、父としての務めであろう!」


 自由とは心地良い響き、誰もが自由に生きれば素敵だと言う。

 誰もが自由ならば、個人の才覚、能力が高き者が台頭する。

 それを批判するも自由、それを阻むも自由と人は言う。

 それは果たして、素敵なことなのか?

 タックロを築きし我が先達よ、その血の血脈が自由を叫び、自由を守る城壁を壊そうとしている。

 不自由と言う名の城壁こそが、自由を守るとものだと息子は解っているのだろうか?
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