第8話 メイドの独白

文字数 2,051文字

 私はメアリー・ランゼボルグ。

 ランゼボルグ侯爵家の7女です。

 かれこれ帝城へ出仕して3年、第3皇子付きになって2年が経ちます。

 私も良い歳なので早く結婚したいのだけど、私の上にまだ3人いるので侯爵家の力は使えないのです。

 殿下は人見知りもあってか、いつも部屋で1人でいます。

 殿下の部屋には近付かないことが離宮の掟です。

 以前、その掟を誤って破ってしまったメイドがいたそうですが、直ぐに馘首(くび)になったとか。

 私は余計な詮索はしない。

 世の中には知らない方が幸せなことがある。

 侯爵家で口を酸っぱく言われたことだった。

 殿下は来年から帝都の魔法学園か騎士学園のうち、どちらかに通う予定なので、専門の家庭教師が10人付いて毎日勉学に励んでおられます。

 その家庭教師のうちで、剣術の先生が度々お辞めになります。

 理由は、実力不足で殿下を上達させれないからだとか。

 結構有名な先生達なんですけど。

 他のメイドの子によると、殿下に剣の才能が全くないので育てようがないので辞めたらしい。

 でも他の9人の先生達からは殿下は天才、秀才の声しか聞いたことがない。

 じゃあ殿下が外で遊ばずにいつも部屋でいるのは、運動嫌いの運動音痴だからだろうか?

 新しい剣術の先生が来た。

 私だって知っている、帝国剣術デバック流剣盾術師範ジャンクス・デルパオロ卿。

 男爵で独身の有料物件。

 他のメイド達が確実に狙ってるけど、私は結構(パス)

 だって融通が効かない性格だし、猪突猛進で暑苦しい。

 私は物静かな人がいいな。

 そんな人いないかな。

 ある日、デルパオロ卿が殿下の性根を叩き直すって、中庭から大声で叫ぶ声が聞こえてきた。

 急いで数人のメイドと一緒に駆けつけると、

「殿下! 参る!」

 って、デルパオロ卿が殿下を、打ち据えようとしているところだった。

 あ。危ない。殿下。

 皆悲鳴を上げたけど、打ち据えられたのはデルパオロ卿の方だった。

 え。うそ。デルパオロ卿が負けるなんて。

 その後、何度も殿下に向かって行き、ボロボロになったデルパオロ卿は、殿下の剣術の腕前を褒めて帰っていった。

 殿下って凄い。

 あのデルパオロ卿に勝つなんて。

 翌々日、新しい剣術の先生が来た。

 物静かで貴賓のある人だった。

 私の好みど真ん中だ。

 だけど、殿下がお見えになられると伝えると、その方は私を口説いてきた。

 え。正気なの? 

 殿下が間もなく見えられるのよ? 

 私は必死に拒否をして断ったんだけど。

 その方はなんと土下座をしてまで、私と逢い引き(デート)したいって。

 胸が、張り裂けそう。

 でも断らないと。

 だって、その方の後ろに殿下と執事長が立っているんだもの。

 え。まるで何ごともなかったように、その方は完璧な儀礼で殿下に挨拶する。

 でも、殿下も何ごともなかったように接している。

 どういうこと? 

 私だけ幻を見ているの? 

 するとその方は、失礼と言いながら殿下の体を厭らしく触り始めた。

 は。ドッキン。

 私に衝撃が走る。

 俊麗な貴公子が美少年を......。

 駄目、駄目、それ以上は駄目。

 私は無意識にその貴公子をグーで、殴って吹っ飛ばしてしまった。

 終わった。

 私の人生が...今、おわった。

 え。また何ごともなかったようにその貴公子は復活した。

 え。殿下も何ごともなかったように接している。

 え。私は頭がおかしくなってしまったの? 

 中庭で殿下と打ち合ったその貴公子は、

「.........殿下にその覚悟がおありですか?」

 って、問いかけた。

 殿下の双剣の才能は凄いけど、師匠が有能じゃないとその才能は開花しない。

 でも、その才能は命を奪い奪われる世界でしか開花しない。

 その世界で生きる覚悟をその貴公子は、殿下に問うていた。

 格好良い。素敵。きゃあああああ。

 貴公子と美少年の遣り取りに心の中で歓喜する。

「あります。よろしくお願いします」

 ゆっくりと答える殿下。

 その言葉の重みが、私にも伝わって。

 胸が苦しい。

 そして、その貴公子は殿下の新しい剣術の先生になった。

 やったー。また会える。

 するとその貴公子は、私をまた口説いてきた。

 土下座で。

 え。この状況(タイミング)で? 

 嘘でしょ? 

 その貴公子は土下座をしながら、不意に殿下を覗き見したけど。

 殿下はもういないけど?

 そして、貴公子は何ごともなかったように颯爽と去っていった。

「お嬢さん、またお会いしましょう」

 その貴公子の名は、エドバルト・ナインテール伯爵。

 

帝国護剣の1人で、土下座しながら私を口説いてくる愛しい方。
 
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