第168話 出会い

文字数 1,485文字

 私の名は、ゼスト。

 家名((かばね))は無くなった。

 元テスラ王国第1王子だ。



 我が国には掟が在る。

 古の龍が我らに授けた力、【(プラーナ)】を遣え無い者は、竜の民に(あら)ず。

 遣える者は、生まれたての赤子でも遣える。

 遣え無い者は、老人と為っても遣え無い。

 私が王族でなければ、何と言うこともなかったかも知れない。

 だが、テスラ王国を統べる。竜の民を統べる者には、死活問題だった。

 私は幼き頃から、蔑まれてきた。

 第1王子で在るが故に、王家の面汚しと影で言われていることを知っている。

 心無い中傷が、幼き頃から私を蝕んできた。

 結局、成人の儀に為っても(プラーナ)は纏えなかった。

 無能者、・・・・・・そう言う陰口が、誰憚ること無く私に突き刺さる。

 王族で無くなった私に、価値は無いようだ。

 父上とは会ってもいない、伝令が来て私に即刻国外退去を告げただけ。

 家族は誰も会いにも来ない。

 王族とは因果なものだな。

 血の繋がりさえ、力が無いと認められないらしい。



「お世話になりました、導師。今日、国を出ます。今までありがとうございました」

 私は竜気道(ドラゴニックプラーナ)の導師ミラン・レゲンイウス様に別れの挨拶に来ていた。

 師は私を王族では無く、只の弟子として厳しく指導してくれた。

 (プラーナ)は纏えずとも、技は道場で一番だと自負している。

 ふっ、技か。

 技が優れていようと、(プラーナ)を纏う兵士には敵わない。

 圧倒的な地力の差が、技が差し込める隙を与えない。

 私は今日、生まれた国を出る。

 もう二度と戻って来ることはないだろう。



 国境を逃げるように抜けて、隣国ラグーンへ入国をした。

 ラグーン王国は先王が無くなり、最近代替わりしたばかりだと聞く。

 ラグーンはテスラと違い、(プラーナ)が纏えようと纏えまいが、誰も何も言わない。

 ラグーンの紅い塩水湖。此れだけで経済を為す稀有な国が、ラグーンだった。



 うん? アレは一体何をしているんだ?

 十数人の旅の集団が模擬戦をしているようだった。

 此処は塩水湖から少し離れた雑木林の中。

 其の中の開けた広場で、遠目で見ても達人だと解る者たちが鍛錬をしていた。

 懐かしいな。道場で己の限界まで鍛え上げた日々が、走馬灯のように目に浮かんだ。

 私は鍛錬を盗み見るのは失礼と思い、直ぐに立ち去ろうとした。



「こんにちは、お兄さん! 良かったら、僕と手合わせをしない?」

 エルフの少年がいつの間にか、私の背後を取っていた。

 馬鹿な、全く気付かなかったぞ?



 ふむ、(プラーナ)が遣え無い、自分の力が何処まで通用するのか?

 試して見るのも一興だ。

「ああ、良かったら頼むよ!」

 あの見るからに達人の者達には敵わないだろうが、自分の能力を見極めたかった。



 そして、地獄を見た。

 エルフの少年は化物だった。

 私が(プラーナ)を遣えても勝てるとは想えないくらいに。







 私の名は、ゼスト。

 只のドラゴニュートのゼストだ。



 アルグリア大陸には、【アルグリア五闘神】と呼ばれる闘いの神と呼ばれる、武を極めし者達が存在する。

 其の五闘神の筆頭に挙げられる火の闘神【ゼスト・フィーゴ】。彼はテスラ王国の王族だったと謂われているが、本人が其れを認めたことは無かったと謂う。
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