第153話 化物の、お前に、願う!

文字数 1,116文字

 私は、バルクル・ラグーン。

 元ラグーン王国の第2王子だ。

 現在は、王として即位しラグーン王国を守護する者だ。



 私は王位になど興味も、何の思いもなかった。

 だから、兄エリルクと弟キルベルとの王位継承の争いにも、関与する気など全くなかった。

 其の私が王に為っている。

 理由はベリウル王国の陰謀だ。

 私は王に為りたくなかった。

 父王の頼みさえ無ければ。



 王位には興味は無かったが、情報には興味があった。

 私が育成した情報組織【鎮魂歌(レクエン)】が、隣国ベリウル王国の陰謀の尻尾を掴んできた。

 父王の崩御に依り、状況は変わった。

 兄が、弟が、どちらが王に為ろうとも、ベリウル王国は陰謀の果実を食すことが出来る。

 其の重厚な陰謀の糸を潜り抜けるには、私が王に為るしか方法が、時間がなかった。

 私自身が望まない王位など、他人が受け入れる筈もない。

 私の足を引っ張ろうと、其の思惑がラグーンを滅ぼすとは思いもせずに。

 愚か者、無知とは幸せと知った。

 世の中には、知らない方が楽で幸せなことが在ると知った。

 私の味方は、【鎮魂歌】と数人の同士だけだ。

 何故か兄エリルクが、私を補佐し助けてくれる。

 兄の思惑は何だ?

 弟キルベルは、ベリウルの陰謀の糸に絡め取られている。

 弟の支持母体は、軍部だ。

 此のままでは、最悪軍部で反乱が起こる。

 兄の支持母体である、政務官僚は渋々とだが私に従ってくれる。

 宰相ニルナム・ザハーン。

 彼も同じく、渋々と従ってはくれるが。



「陛下、テスラ王国の件はやはり嘘話(でま)のようです! ベリウルは、ラグーンの内乱を策し、テスラ王国との不和を狙っているよしに御座います!」

 情報組織【鎮魂歌】の記号(シンボロ)の一人が、私に告げる。

 ベリウルが狙っているのは、塩水湖であるラグーン湖で産出される塩。

 内陸部での塩は金に等しく。其の価値は高い。

 岩塩もあるが、発掘量には限界が在る。

 だが、ラグーン塩水湖では、塩水が湧く。

 其の奇蹟のような塩の恵みを、ベリウル王国は永年狙っていたのだった。



 亡き父の言葉が、私の脳裏に刻まれ、私の未来を決した。

『バルクル、王と為り、ラグーンを護れ!』

 ベリクルの陰謀を知っていた父王は、私にそう告げる。

『バルクル、化物のお前に願う、ラグーンを護れ!』

 私の本性を知っている父王が、私にそう告げる。







 私はバルクル・ラグーン。

 ラグーン王国の国王にして、ラグーン王国の守護者(ばけもの)である。
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