第4話 怠け者

文字数 1,917文字

 私はエドバルト・ナインテール。

 無職だ。法衣貴族ではあるが無職だ。

 

に配属されているが無職だ。

 私は働きたくない、だから無職だ。

 そんな私に働けって長年の親友ジャンクスが、ある日訪ねてきた。

 なんでも彼を子供のように剣術で、(あしら)った12才の子供がいて、その子供に双剣を教えて欲しいそうだ。

 嫌だ。無理だ。働きたくない。

 しかし、あのジャンクス・デルパオロを剣術で、(あしら)う子供がいるとは気になるな。

 でも無理だ。働きたくない。

 え。長剣だけで勝負した? 

 お前は剣盾術の師範だろう? 

 まあ。長剣でも剣盾でも子供と勝負したお前が、大人げないのは変わらんし、長剣でも師範代の資格持ってたよな?

 そんな私にジャンクスは、自分と一緒に一度会ってから決めてくれと、それに逆に私の方が断れるかもしれない相手だと言う。

 えっ? その子供は第3皇子だって? 

 嫌だ。無理だ。面倒臭い。

 でもジャンクスは諦めない。

 そう言う男だ。

 仕方がない会って、私が第3皇子に

良い。

 それだけだ。

 それから私達の剣術の師匠にジャンクスが、剣術指南役をクビになった報告に行くので一緒に来て欲しいだって? 

 嫌だ。無理だ。

会いたくない。

 その後、第3皇子に一度会いに行くからと師匠の件は断った。

 翌日、ジャンクスから使いが来て、彼は不幸にも

にあったらしい。

 やっぱり

に遭ったんだ。

 事故を回避出来たのは重畳だが、第3皇子に会いに行かないといけないのは頂けない。

 翌日、離宮へ第3皇子に会いに来ていた。

 執事から呉呉も粗相の無いようにとの言葉を頂いた。

 良い仕事(グッジョブ)だ。

 流石出来る執事だ。

 これで布石は完璧だ。

 第3皇子が来られると伝えに来たメイドを私は口説き始めた。

 メイドは私を気が狂ったのかと言わんばかりの驚愕の表情で見て、即座に拒否の意を表したが、もう遅い。

 第3皇子は私の後ろに来ている。

 ここで、決着(フィニッシュ)だ。

 私はメイドにどうか逢い引き(デート)して欲しいと、

をした。

 完璧だ。

 これで

は、終わるだろう。

 私は無様にメイドに振られた。

 私はそこで初めて第3皇子に気付いた振りをして、

「ごほん! 初めて御意を得ます殿下!」

 と臣下の礼を取りながら片膝をついた。

 だが、第3皇子は何もなかったように推薦状を読み私を見つめていた。

 私の第六感(シックスセンス)が警告音を鳴らした。

 このままだと雇われてしまう。

 そこで私は失礼と言いながら、不躾に第3皇子の体を触りまくった。

 これで完璧だ。うん? 

 この筋肉の付き方は......案の定、メイドにぶっ飛ばされた。

 ふっははは。

 無様な私を見るが良い。

 ......なんだと。

 そんな私を第3皇子は、何ごともなかったように見つめたままだった。

 仕方なく中庭で、第3皇子と剣を交えたが驚きの一言だった。

 第3皇子の年齢で、誰にも師事せず我流でここまで双剣を使えるとは。

 天才だ。

 ジャンクスが言うだけのことはある。

 だが惜しい。

 才能があるだけに惜しい。

 才能が有っても大成しない者達を多く見てきた私は純粋にそう思った。

 才能があってもその才能に胡座を掻いた者。

 才能があってもその才能を磨く者が無能だった者。

 数限りなくそう言った者を見て来た私が言うのだ。

 惜しいと。

 打ち合いを止めて、第3皇子に私は問う。

 剣術を究めるとは、命のやり取りを究めると言うこと。

 その覚悟があるのかと。

 第3皇子は微動だにせず、じっと私の目を見つめていた。

 その目は私の全てを見透かしているようで、私はそこで初めて第3皇子の威に当てられている事実に愕然とした。

 第3皇子はゆっくりと何かを噛み締めるように、

「あります。よろしくお願いします」

 と。

 失敗した。

 私は、第3皇子の双剣の師匠になってしまった。

 嫌だ。無理だ。働きたくない。

 私は諦めない。

 チラッと近くに控えているメイドを確認して、再度口説く暴挙に出た。

 もちろん土下座付きだ。

 どうだ。参ったか。

 そして、第3皇子を見た私は愕然とした。

 ......そこには第3皇子は、もういなかったのだった。
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