第70話 暗雲

文字数 1,090文字

 我は猿命(アフレブン)

 ギエロア大王国の大王直属の暗部『(アフ)』の統括者だ。

 この度、エルブリタニア帝国第1皇女ローゼティアス・エルブリタニアの暗殺の補助と後始末を大王から勅命を賜った。

 市井の暗殺組織『闇の牙』が上手く皇女を始末出来ればそれで良し。

 しかし、失敗するようなら我が組織で皇女の始末を付けて『闇の牙』にはアルグリア大陸から退場願うことになっている。

 それを肌で感じているのか『闇の牙』は、組織を抜けた元超一流の暗殺者を復帰させ今回のことに挑むつもりのようだ。

 我の目の前に料理人(マギュレプステ)と呼ばれる暗殺世界に於いては伝説の暗殺者がいる。

 氷の如き佇まいと炎の如き胸懐が目に見える暗殺者が、己以外の者を一瞬にして殺し尽くす幻影が見える程、己の激情を隠さない。

 一体『闇の牙』は、料理人(マギュレプステ)に何をして今回の暗殺依頼を受けさせたのだろうか?

 我には解る。

 料理人(マギュレプステ)は、ギエロアの名を出そうと我らを殺すことに躊躇いはない。

 ヤバい雰囲気が辺りに立ち込める。

 超一流の暗殺者が殺気を押さえないってことは、意図的に出しているのだ。

 馬鹿が、例え今回の暗殺が成功しても料理人(マギュレプステ)の怒りの炎で『闇の牙』は壊滅するだろう。

 まあ、料理人(マギュレプステ)が我らに敵対するなら潰すだけの話だ。

 え、手綱はしっかりと握っているから大丈夫だ?

 『闇の牙』の頭目がそう言っているが、現実がその言葉を否定している。

 まあ、この空気感が解らない者が率いる暗殺組織なのだ。

 大王陛下が我らを派遣したのは最もことだ。

 我が暗部『猿』の者達は、料理人(マギュレプステ)の気配を感じ続けることにかなりの緊張を強いられている。


「グッハァ! 何奴!」

「姫をお守りしろ! 防御陣形を組め!」

 『闇の牙』の襲撃により陣形を崩された警護騎士団だが、第1皇女の後ろ盾であるヘテクロス公爵家の精鋭騎士達100余名を掻い潜り、第1皇女を仕留められるかが見所である。

 失敗すれば我が『猿』が暗殺を引き継ぐだけだ。

 しかし、その精鋭騎士団を1人で殺しまくっている料理人(マギュレプステ)の力量こそ我の脅威であった。

 この化け物の牙が我らに向いた時、我らは勿論無傷ではいられない。

 無言で淡々と精鋭騎士団を殺していく料理人(マギュレプステ)サミュエル・ガトーが第1皇女暗殺を成功した後こそが、我が『猿』の本当の出番であると我は確信していた。
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