第151話 ラグーン王国

文字数 1,165文字

 私は、エリルク・ラグーン。

 元ラグーン王国の第1王子だ。

 現在は、王兄として王を補佐している。



「何故なのですか、エリルク王子! 何故バルクル王子に王の座を譲ったのですか?」

 私の義理の父である宰相ニルナム・ザハーンが、喚き立てている。

 唾を飛ばすのは止めてくれないか?
 


「落ち着け、ニルナム! バルクルが王子でも、ラグーン王国にはお前が居るではないか? 何が問題なのだ? 私はバルクルを補佐して行こうと思っている! 頼む、ニルナム! 力を貸してくれ!」

 私の頼みの言葉に、ニルナムは口を閉じたが、其の思惑は透けて見えていた。

 私が王に為り、義理の父として、国政を思うままに操ろうとしていたニルナム。

 そちの娘から、全て聞いて居るぞ?

 

「そうではないのです、エリルク王子! 此のままでは、ラグーン王国は成り行きません! ご再考を頂けませんか?」

 必死の形相のニルナムに、私は申し訳なさそうに言う。

「無理を申すな、ニルナム! もう戴冠の議も済んで居る、バルクルを、ラグーン王国を頼む!」

 何故、此処までニルナムは、諦めが悪いのだろう?

 現在では全て終わっている。

 此の状況で引っ繰り返せる訳もない。

 其のことはニルナムならば、よく解っている筈なのに、何故?



「バルクル王子は確かに誠実なお人柄です。ですが、優しいだけでは国を護ることは出来ません! 現在の周辺王国の状況と、我がラグーン王国の状況から、私は申し上げているのでございます!」

 う、うん? 如何いうことだ?

 現在、ラグーン王国は周辺諸国とは良好な関係である筈だが?



「第3王子のキルベル殿下が、軍部の力を背景にラグーン王国を御しようとしていることは、殿下もご存じの筈?」

 ああ、キルベルか、……確かに、奴は脳筋だが。

 軍部と示し合わせて反乱でも起こすと言うのか?

 其処まで馬鹿ではあるまいに。



「キルベル殿下の背後に、ベリウルの影が見えます!」

 な、なんだと? ベリウル王国だと!?

 ベリウル王国とは、我が国の東に位置する軍事国家。

 幾度も我が国と戦いあった敵国。

 だが、近年父上の外交の成果で、良好な関係の筈では無いのか?



「テスラ王国、……と言えばご納得頂けますか? ベリウルはテスラを動かそうと画策しています。此のままでは、ラグーンは風前の灯火なのですぞ?」

 は? 何を言ってるんだ、ニルナム?

 テスラ王国は不戦国家。

 テスラ王国からの侵略などありえん、気は確かか?



 宰相ニルナム・ザハーンの言葉に、我は彼の正気を疑ったのであった。







 私は、エリルク・ラグーン。

 王兄として王を補佐する者だ。
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