第75話 蹂躙

文字数 1,439文字

 我は猿命(アフレブン)

 ギエロア大王国の大王直属の暗部『(アフ)』の統括者だ。

 この度、エルブリタニア帝国第1皇女ローゼティアス・エルブリタニアの暗殺の補助と後始末を大王から勅命を賜った。

 現在、『闇の牙』が第1皇女一行を包囲して、料理人(マギュレプステ)と呼ばれる超一流の暗殺者がたった1人で標的を蹂躙している。

 これは暗殺者の殺し方ではない。

 激情のままに殺す、只の獣だ。

 『闇の牙』の統括者は、それを満足気に見つめている。

 此奴は阿呆なのか? 料理人(マギュレプステ)の殺気が、お前を含む俺達全てに向けられている現状を正確に理解しているとは思えない。

 こんな阿呆に帝国への布石を依頼した者は、大王の怒りに依りアルグリアから早々に退場して貰おう。

 後残すところ警護の騎士はたった1人だ。

 第1皇女の命も風前の灯火だった。

「「「ギャアアアアア!」」」

 囲いの一郭で絶叫が響き、化け物達が現れた。

 もう一度言う、化け物達が現れた。

 圧倒的威圧を放ちながら、その化け物達は『闇の牙』の構成員を塵芥のように蹂躙する。


 ヤバい、ヤバい、ヤバいなんてもんじゃない!

 こんな威圧だけで我を圧倒する者達がいるとは!?

 我には解る! 我等には絶対の死が与えられることが! 我の本能が理解した!


「撤退だ! 退け!」

 我は一瞬で撤退の判断を下した。

 我の号令で、『闇の牙』の集団に配置した『(アフ)』が一斉に散会する。

 な、なんだと! 我等の退路は一瞬にして氷の障壁に依り閉ざされた。

 な、なんだと! 料理人(マギュレプステ)が警護騎士に当て身を加え、第1皇女に肉薄したが、メイドが我の目にも止まらぬ早さで盾となりそれを拒んだ!

 流石は料理人(マギュレプステ)、超一流の暗殺者だ! 一瞬の判断が飛び抜けている! そして、再度標的に刺し込む剣の煌めきが我のは見えた!

 獲った! そう我は確信したが、料理人(マギュレプステ)の剣は標的には届かなかった。

 な、なんだと! 料理人(マギュレプステ)の剣は根元から絶ち切られていた!

 それを為したのは子供と言って良いエルフの少年だった。

「僕の妹をよくも泣かしたな! 僕はビクトリアス・エルブリタニア! お前達を討ち滅ぼす者だ!」

 な、なんだと! この少年がオルスカ王国闘技会覇者であり、獣王を降したエルブリタニア帝国の第3皇子なのか!? それに頭に乗っている黒猫は何だ?

 うん? 何だ、料理人(マギュレプステ)に件の少年が何かを渡した?

 な、なんだと! 料理人(マギュレプステ)が『闇の牙』を蹂躙し始めた!?

 ヤバい、ヤバい、糞ヤバい! くっ、何だと言うのだ!

 バリバリバリ! ドォーン! くっ、何だ? 雷だと!

 な、なんだと! 我が猿共が蜘蛛の糸? に絡め獲られている?

 ドォーン! な、爆炎が上がり『闇の牙』の構成員が燃え上がる!

 な、何なんだ! 一体、何が起こっているんだ?

 気付くと我の前に、件の少年が立っていた。

 ゴクリ、な、なんだと言うのだ? この圧倒的な化け物を従える少年は一体何者なんだ?

 我はその件の少年、エルブリタニア帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニアに問いかけた。


「僕が“何者”だって? 僕は猿命(アフレブン)! お前を滅する者だ!」
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