第94話 衝突

文字数 1,590文字

 俺はグリスティス・オールバ。

 元ナリス王国、青銅騎士団団長である。

 ベガ王国との国境での赤鬼騎士団との衝突に破れ、虜囚となった。

 度重なる伏撃に依り、我が青銅騎士団は壊滅した。

 己の不甲斐なさに忸怩たる思いであった。

 ナリス王国が沈み、レクリア王国も沈み、西方三国の最後のミダス王国も沈んだ。

 そして、明かされた驚愕の事実。

 西方三国は古のクローマ王国の再興に依り滅んだ。

 再興したクローマ王国の後ろ盾が、

アッバース王国だとは...。

 己が正義を疑わず、己が正義を貫く



 正義とは立ち位置に依って、その立ち位置の数だけ存在するもの。

 アッバースの正義とは、アッバースの立ち位置で見た正義。

 そんな独善的な正義に屈した。

 力こそ正義。

 力なき正義は、アルグリア大陸では認められない。

 それは絶対なる自然の摂理だった。


 俺は解放後、クローマ王国への仕官を要請された。

 しかし、己が祖国を滅ぼした者に仕える訳にはいかなかった。

 俺は年老いた両親と一族の者を連れて、祖先の地を離れることにした。

 クローマ王国は、俺の資産を奪いはしなかった。

 仕官を断った俺に、気が向けばいつでもクローマ王国は貴殿を迎えるとまで伝えて来た。

 俺は旧ナリス王都を離れ、一路アルグリア大陸中央を目指した。

 そんな俺をクローマ王国は見過ごしはしなかった。

 否、再興したクローマ王国の指揮系統が複数存在していたからだった。

 俺の一族の逃避行は苛烈を極めた。


「グリスティス・オールバ! その首を貰い受ける!」

 幾度と終わることの無い襲撃に疲弊していく一族郎党を統率し、俺は襲撃者を撃退する。

 襲撃者の1人が俺を嘲りながら死んでいった。

 クローマ王国に仕官しておけば、追手を放たれることも無かったのにと。

 どうやら俺は賞金首になっているようだ。

 俺の首を獲って来た者には、それ相応の地位が与えられる。

 ふっははははは。

 馬鹿はお前達だ!

 俺の首を獲って帰ったところで、仕官どころかその存在すら消されるわ!

 クローマ王国、古の西方王国にして、我がナリス王国の起源でもある国。

 しかし、その行いは伝え聞く高潔なる魂ミルテッド・クローマとは別物だった。

 高潔な魂の子孫を語るなら、その行いは高潔であるべきだ。

 話し合いもなく、一方的に侵略を行い我らの行いを断じる。

 そこに高潔な魂などあるものか!

 正義とは立ち位置の数だけ存在する。

 ある立ち位置の者にとっては、俺の首を取ることが己の正義なのだ。


「グリスティス様! 囲まれております!」

 くっ! 抜かったか!

 俺達一行を包囲する盗賊の群れに偽装した者共が、雄叫びも上げずに静かに我らに襲い掛かった。

 その身の熟し、騎士の癖が見て取れる。

 俺は我が一族の最後を予感した。

 俺の我儘故に、一族の者達には辛苦を味合わせた。

 そして今、命まで奪われようとしている。

「うぉおおおおお!」

 俺は理不尽なる運命に吠える!

 俺はグリスティス・オールバ!

 俺は諦めない! 最後まで戦い抜く!

 件の集団が我らを屠ろうとした時、爆音が轟いた!

 我らを襲おうとした者共達が吹き飛ぶ!

 我らを襲おうとした者共達が泣き叫ぶ!

 我らを襲おうとした者共達が逃げ惑う!


「こんにちは、初めまして、僕ビクトリアスと言います。勝手に分け入って、ごめんなさい。貴方に話が合って来ました」

 我らを襲おうとした者共達を倒した一団を率いるエルフの少年が、申し訳なさそうにそう言った。

 その少年こそ、俺の全てを懸けて終生仕えることになるお方だった。
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