第50話 解放

文字数 1,281文字

 私はチョウ・ライゼン。

 元フューダー大王国将軍です。

 そして、現デソロモア王国国王をしています。

 もう一度言います。国王をしています。

 忘れもしません。

 私の主、レイ・ホウセンが12歳のエルフの少年に破れ、我らレイ・ホウセンを慕う2000余名共々、件の少年に弟子入りしたことを。

 そして、あの地獄の修行の日々を。

 私の主は嬉々として修行に勤しんでいましたが、主以外は一刻も早くこの地獄から解放されることを望んでいました。

 私達は“最強の武”に憧れ、己も“最強の武”を目指し、日々の鍛練の質の高さと戦争経験豊富な実践部隊としての誇りを持っていました。

 もう一度言います。持っていました。

 それが、あの頭の逝かれた師匠に依ってあっさりと砕かれたのです。

 え、師匠って馬より早く走るんですね? 

 え、師匠って2000人組手しても、もう1回とか冗談言うんですね? え、早くしろ? 

 え、ここって深淵の森ですよね? え、ここで暫く修行兼食料調達する? 十の災厄(アンタッチャブル)の縄張り付近で、それは危険では? 

 え、心配するなって?

 《黒獣》は師匠の頭の上にいる黒虎の子供? 師匠、冗談は日々の修行だけにして下さいって、えええええ! 私達の目の前で巨大化する《黒獣》エクリプス。

 ぎ、ぎ、ぎゃあああああ! 

 え、その色白の美女が《氷狼》? 私達の目の前で変身する《氷狼》エンプレス。

 ぎ、ぎ、ぎゃあああああ! 

 え、その田舎者が《麒麟》? 私達の目の前で変身する《麒麟》パラグラム。

 ぎ、ぎ、ぎゃあああああ! 

 え、そのオカマが《海竜》? 私達の目の前で変身する《海竜》リヴァイアサン。

 ぎ、ぎ、ぎゃあああああ!

 え、その(やつ)れた男の人は普通のエルフ? 良かった~普通が一番だ~。

 え? その男は私達に告げる。

「今が地獄の底じゃない。俺には今は、天国の楽園だ」

 え、冗談ですよね? レディ先輩? 

 え、先輩もつい先日まで馬に乗っていた? 

 え、直ぐに馬よりも早く走れる? 

 え、直ぐにドラゴンよりも強くなれる? 

 え、地獄の日々に慣れたらもう元には戻れない?

 え、元には戻れないってどう言う意味ですか? 

 レディ先輩は遠い目で、こう言った。

「直ぐに解るよ」

 いっ、いっ、嫌だあああああ! 解りたくない。

 2000余名の叫びが木霊する。

 そして、レディ先輩の言葉の意味を本当の意味で、私が理解した時には、全て手遅れだった。
 

「「「「「魔王様、万歳~! チョウ・

陛下、万歳~!」」」」」

 そう私は超大国、デソロモア王国の国王......魔王となって初めて理解した。

 師匠を“残念な天然さん”と畏怖を込めて呼ぶ、レディ先輩の言葉の意味を解ってしまった。

 でも、良かった~! これで十の災厄(アンタッチャブル)との模擬戦をやらずに済む。

 私は地獄からの解放に心ときめかしていた。
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