第18話 メイドは見た!
文字数 1,476文字
私はメアリー・ランゼボルグ。
エルブリタニア帝国第3皇子殿下のメイドです。
私のお仕えする殿下の離宮には、掟があります。
無闇に殿下の部屋に近付かないことです。
その掟を破ったメイドが馘首にされたことは、離宮仕えの者は皆片時も忘れません。
只、それなのに今日は執事長から再度、誰も殿下の部屋に近付くなと厳命されて皆困惑するばかりでした。
一体何があるのか? 好奇心ケットシーを殺すとも言います。
9つの命を持つと言われるケットシーも、好奇心でお亡くなりになると言う教訓です。
私は長生きして幸せになりたいので、何があろうと知りたくありません。
実は私の家、ランゼボルグ侯爵家にも世間には、知られてはいけない秘密があります。
エルブリタニア帝国は、エルフ純血至上主義と言われるエルフのみが優れた種族であり、他種族の血をエルフに入れることを禁忌としている考え方が、帝国貴族世界では主流なのです。
なので、絶対我が家の秘密を誰にも知られる訳にはいけないのです。
その為、我が侯爵家では未婚の上3人の姉と私と妹を含め、兄弟姉妹10人の婚姻先には、細心の注意を払っているのです。
その秘密の特性として、我がランゼボルグ家の血縁者には、特殊な力を持つ者が生まれやすくなります。
斯く言う私も、
ある力
を持っています。え。
メイド長から殿下の部屋に行って、様子を見てくるように申し付けられました。
序列では普通は執事長の方が偉いのですが、ここ殿下の離宮ではメイド長と執事長は同列に扱われています。
つまり、この離宮では殿下の次に偉いのがこの2人だと言うことです。
私は念の為に執事長の件を伝えましたが、気にすることはないとのことでした。
殿下の部屋に近付くにつれ何か聞こえます。
耳を澄ますと、ぐすっぐすって泣き声が......。
殿下!
私は、殿下の部屋に向かって走り出しました。
殿下が泣いている。
私の胸は、締め付けられ張り裂けそうでした。
何故なら私には、
あるもの
が見えるからです。殿下の部屋に近付くほど鮮明に、殿下のしゃくり上げる泣き声が心に響く。
部屋の扉を急いで叩き、殿下の言葉を待たずに、メイド失格の烙印を押されても良い覚悟で、扉を私は開けたのです。
そこには縄でぐるぐる巻きにされた殿下が、1人ぼっちで泣いていたのです。
ああ、殿下。
私は気が動転してしまい思わず、
力
の一端を使ってしまったのです。「風よ、裂け!」
私の言葉で風の精霊が殿下の縄を切り落とし、私は殿下を不敬ながらも強く抱き締めたのでした。
「メアリー、ありがとう。そして、ごめんなさい」
愛らしく殿下が、潤んだ紅玉の瞳一杯に涙を溜めて、私に呟くのです。
何を私に謝る必要があるのですか。
悪いのは経緯から見て、執事長ではないかと私は推察しました。
いたいけな殿下に対して、臣下として許されざる行いです。
「メアリー、ごめんなさい。僕漏らしちゃった」
え? 確かに殿下の下半身に水気が......はう。
なんと言うことでしょう。
赤い顔で私を見る殿下。
おのれ~殿下に恥を掻かせるとは、執事長......否、あの禿げ! 許すまじ!
私には、魔力の
色
が見えるのです。だからこそ解るのです。
殿下が、他の人とは違う
化け物
だと言うことが、私には解るのです。