第113話 旅は続く

文字数 1,478文字

 妾はアンチノミー。

 新婚旅行(ハネムーン)中の花嫁じゃあ。

 愛しの旦那様の母上様にお会いした。

 妾を見て固まっておられた母上様も、快く旦那様との結婚を祝福してくれた。

「ビズをお願いします。この子は強すぎる力を持っておるので頼みます...」

 流石は旦那様の母上様である。

 妾が“何”であるかを知り、それでも旦那様の将来を託すとは。

 あっぱれじゃあ!

 勿論なのじゃあ!

 妾の旦那様は確かに、強すぎる力を持っておる。

 しかし、その性根はまだ何ものにも染まっていない無垢である。

 旦那様が何色に染まろうとも、妾は旦那様の隣を離れはしない。


「お、...お主は、一体何者なのだ?」

 ジャイアントの騎士が、旦那様に尋ねる。

 何故か恥ずかしそうにビシッとお決まりのポーズを取る旦那様。

「僕が“何者”だって? 僕はダロス・アジタート、お前の願いを叶える者だ!」

 そして、お決まりの言葉。

 旦那様が仰るには、この一連の流れは“決まっている”らしい...。

 時々、旦那様が何を言ってるか解らない時がある。

 皆は旦那様の変わった発言も、残念な天然発言として受け流している。

 旦那様の持つ紅玉の瞳、ロスタロスの瞳。

 あの小僧の血脈と妾が結ばれるとは、...。

 ほんに奇縁じゃのう、むふふふふふ。


「みんな、北へ向かいます! 次の目的地はイルガリア王国です!」

 旦那様が行く先を告げると「おおっ!」っと歓声が揚がる。

 歓声を揚げているのは、古の盟約の獣である7柱だ。

 無言で遠い目をしているのは、レディだ。

 「はっ!」と畏まっているのはレイ。

 目礼しているのはレジー。

 この旅に途中で加わった3人、ジュダ、アラート、グリス。

 そして、新たに加わるジャイアントの騎士ダロス。

 うん? ダロスが不思議そうにしているな、如何したのだ?

「失礼ながら、我が主ビクトリアス様。北に出発する前に筋を通しとうございます。“正義の審判”に依りアッバースを去るとしても、儂が仕えている王に暇乞いをしなければなりません。ちなみに、ビクトリアス様は一体何処の誰なのでしょうか?」

 気絶から立ち直ったダロスとしては、北へ出発と言われても段取りと言うものがあろうな。

「ごめんなさい、ダロスさん。詳しく説明していなかったね。僕は...」

 ダロス、申し訳ない。

 妾の旦那様は、残念な天然さんと皆から認識されているエルフの希少種なのじゃあ。

 旦那様がエルブリタニア帝国の第3皇子であると知り、難しい顔となるダロス。

「失礼ながら、ビクトリアス様はリゲル・スピカ・カペラ・デネブ・シリウスの西方諸国軍を蹴散らした、あのエルブリタニア帝国の第3皇子殿下であられるのですか?」

 ベガ王国が抜けているけど、やっぱり不味いわよね?

「はい、そうです! ああ、ベガ王国の軍もですね!」

 ハミカミながら、そうダロスに答える旦那様。

 何か問題があるのって顔で不思議そうにしている旦那様。

 ダロス、申し訳ない。

 問題があるに決まっている。

 只、旦那様にとっては問題ではないと言うことなのじゃあ。

 許せ、ダロス。

 その内に慣れるであろう。

 そう皆のようにな!

 
 蒼白となり、困った表情のダロスに旦那様が追い打ちを掛ける!

「何か問題あるの? 問題は“正義の審判”で解決すれば良いよ?」

 今日も天然が冴え渡っておるのう、旦那様...。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み