第117話 正義の審問官

文字数 1,159文字

 私はジクミーロ・ランスロット。

 カリダドの聖騎士だ。

 私は教皇猊下の勅命に依り、この度の西方でのクローマ王国の件を調査する為にアッバース王国の王都イブンに来ている。

 我が聖カリダド教国では、“審問官”と呼ばれる任務だ。

「ダロス・アジタート卿が、“正義の審判”に依りエルブリタニア帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニアの麾下に入ると、陛下に挨拶に来ておりますぞ!」

 驚愕に事実が宰相カルマート殿から告げられる。

 唖然とするハミルクリニカ陛下を尻目に、宰相は尚も報告を続ける。

「い、いや、失礼しました。...麾下に入る前に陛下の臣を辞する挨拶に見えられております!」

 蒼白の表情の宰相とは反対に、徐々の紅く憤激の表情になっていく、ハミルクリニカ陛下。

 それを見て卒倒し掛ける近衛騎士達。

「ここにダロスを呼べ! 先ずは話を聞かねばなるまい!」

 ほう、激高するかと思ったが...流石はアッバース王国の国王と言ったところか。

 
 重厚な騎士の出で立ちで現れたアジタート卿が、ハミルクリニカ陛下の御前で跪き、この度の仔細を報告する。

「......以上が、仔細でございます。陛下、お世話になりました。お健やかに、...」

 アジタート卿は、片膝をついた状態で己の腰の剣をハミルクリニカ陛下に両手で捧げた。

 アッバース王国の玉座の間で、帯剣出来る者は王と近衛騎士のみ。

 その唯一の例外が、アジタート卿であった。

 ハミルクリニカ陛下は、憤激の表情から静かに落ち着いた様子で、アジタート卿に告げる。

「その方を降した件の皇子は、今何処にいるのだ?」

 ハミルクリニカ陛下は、エルバビロニア帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニア殿下を許す気は無いようだ。

 な、なんと! ハミルクリニカ陛下自らが件の皇子との会談を望まれている。

 会談に依っては、件の第3皇子の命は無い。

 つまり、エルブリタニアとの戦が始まると言う事だ。

「ランスロット卿、貴殿には手数だが会談の見届けをして貰いたい。如何かな?」

「陛下の御心のままに、...」

 ふむ、件の第3皇子とは一体どんな人物なのか?

 他国の、それも狂国アッバースの騎士団長を引き抜く、その豪腕は理不尽の一言に尽きる。

 正気の沙汰とは思えん。

 まさか、この所業はエルブリタニア帝国に依る、アッバース王国との戦いの大義名分の為か?

 否、本質を見誤るな! 事実を見るんだ!

 十数人で西方諸国連合軍25000を敗走させた事実。

 件の皇子が、巨神アジタートを降した事実。

 私は見極めなければならない。


 私はジクミーロ・ランスロット。

 カリダドの聖騎士で、正義の審問官だからだ。
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