第106話 正義の剣

文字数 1,048文字

 俺はクュペルス・サラリナ。

 アッバース王国の特務官だ。

 この度の西方三国統一作戦の監察官兼外交特使の警護を任されている。

 アッバースは正義の剣でなければならない。

 もし万が一に間違いがあれば、正さなければならない。

 アッバースの正義を曇らせては為らない。

 古のアッバースの先人の言葉だ。

 俺はそれを胸に職務を全うする。

 今回のクローマ王国の再興は、何ごともなく終わるはずだった。

 リゲル王国の命令違反と報告義務違反がなければ。

 馬鹿なリゲル軍の指揮官が己の失態を隠し、剰え厳命されていた第一等命令を無視した。

 完璧な作戦に泥を塗ったのだ。

 戦いに於いて、不誠実な行いを為したリゲルに正義の剣を下さん。

 リゲル軍の二度に渡る失敗の連鎖が、西方諸国連合軍にも連鎖した。

 リゲルは元より、スピカ・カペラ・デネブ・シリウスの軍まで敗走した。

 たった十数人の集団に負けるとは、我がアッバースの友としては失格だ。

 しかし、この度の協力は事実である。

 はー、頭の痛い友軍だ。

 それに今回はアッバースは前面には出ない。

 クローマ王国の再興が、アッバースの名で霞む事を陛下が忌避したからだ。

 竹馬の友の為にアッバースの名誉を喧伝しない。

 それもアッバースである。

 友の為に、己の剣を貸す。

 陛下は、アッバースを体現されている。

 俺もアッバースである誇りを忘れない。


「申し上げます! ベガ王国の赤鬼騎士団が敗走しました!」

 は? 何だって?

 え、又もやエルブリタニアの化け物皇子か!

 一体、ベガ王国も何をしているんだ!

 厳しく件の皇子一行には関わるな、触るな、呉々も物見だけに専念しろと言われていただろうが!

 これで、アーク傭兵騎士団まで破れた折には、陛下の判断に依ってはエルブリタニア帝国との戦争もあるぞ!

 エルブリタニアとアッバースとの間に戦争が起きれば、アルグリア大陸中央でそれに絡んだ戦争が起きる。

 ギエロア大王国が、この好機を逃す筈もない。

 我が国と共闘するかも知れん。

 ギエロアが絡めば、アルバビロニア大帝国も動くだろう。

 くっ、大戦争になるぞ!

 それもこれも、リゲルの阿呆が物見だけ放ち、監視に留めておれば...。

 西方三国の騎士だろうが、件の皇子一行と接触したなら引けば良いものを...。

 さて、アーク傭兵騎士団団長のお手並み拝見といたそう。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み