第109話 高潔

文字数 867文字

 私はミドデルス・クローマ。

 古の西方王国クローマの直系の子孫だ。

 太祖ミルテッド様は、“我が兄弟達を見守れ!”と言われた。

 しかし、その想いも叶わなかった。

 アッバースは正義の剣を信条としている。

 このアッバースに於いて、客人として遇してくれる感謝を忘れては為らない。

 その感謝と太祖の想いの狭間に、私は苦悩する。

 私の友であるハミルクリニカ陛下の想いも、私の胸には痛過ぎる。

 全てを上手く纏めることは、非常に難しい。

 私には友の想いと太祖の想いを両立させることが出来なかった。

 私達一族を快く迎え入れてくれたアッバースの先人の想い。

 傲慢に己の想いだけを言うことは、私には出来ない。

 人は私の気性を優しいと評する。

 しかし私の優しさとは批判されない為の、私の処世術なのかも知れない。

 只、自信がない小心者なのかも知れない。

 己の弱さを優しさで隠している臆病者なのかも知れない。

 他を傷つけることを怖れる腰抜けなのかも知れない。

 私は驕ってはいけない。

 全て他の者の力で、私は

のだから...。


「陛下、準備が整いました!」

「ありがとう、ドリトス」

 私の従兄弟にして、アーク傭兵騎士団団長であるドリトス・トルクス。

 今回のクローマ王国の再興は、彼の英知と行動力に依る処が大きい。

 昔のように傅かず、私を弟のように接してくれていたあの頃が懐かしい。

 高潔な魂。

 太祖ミルステッド様のアッバースでの御名。

 その血脈を継ぎし者。

 アッバースに於いて、クローマの名は非常に重い。

 名誉と誇りを信条とするジャイアント族の国、アッバース。

 正義の剣を掲げる尚武の国、アッバース。

 今、私はアッバースの正義の剣に依り、クローマ王国を再興し国王と為る。


 私はミドデルス・クローマ。

 高潔な魂を受け継ぐ者。

 私は驕ってはいけない。

 全て他の者の力で、私は

のだから...。
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