第67話 帰還

文字数 1,253文字

 俺はサミュエル・ガトー。

 暗殺組織《闇の牙》の超1流の

暗殺者(ヒットマン)だ。

 現在はベニアス王国で小さい食堂をしている。

 俺はアルグリア大陸中を暗殺に駆け巡っていたので、各地の食べ物・特産物などには詳しい。

 そして、俺には料理の才能があったんだと思う。

 次々に新しい料理の発想が湧き出てくる。

 暗殺する時の緊張感が俺の全感覚を鋭敏にさせ、それが料理に活きている。

 このベニアス王国は農業王国を土台に、豊富な農産物を活かした商業経済が営まれている。

 そして、アルグリア大陸中から色々な素材が集まる国に於いて、俺の作る料理は頭二つ分は飛び抜けていた。

 開店して二ヶ月でこのベニアス王国の王都ヘテアでも徐々に俺の店の名が広まりつつある。

 そんな俺の店のホールを支えるのが、

闇の瞳の工作員であるサラだ。

 どんな厳つい冒険者であろうと、気障な優男だろうとサラの前では赤子同然だった。

「サラちゃん、俺と付き合ってくれよ~」

 また、客の一人がサラを口説いている。

「あら、ありがとう。でも私にはもうサムって言う旦那がいるのよ。うっふふふふふ」

 俺とサラはベニアス王国では、夫婦と言うことになっている。

 暗殺の為の仕掛けで、夫婦を演じることなど俺達にとって初歩の初歩だ。

 サラを口説いた男が周りの客に慰められているのが、この俺の店の日常だった。

 そんな日常に影を落とす者達が俺の店を訪れた。

 本人達は上手く自分達の素性を誤魔化せていると思っているが、俺達には『闇の牙』の追手だと瞬時に解った。

 臭いがないのだ、このベニアスで働く労働者などは生活している臭いがする。

 『闇の牙』の追手は一流かもしれないが、超一流ではない。

 その生活臭がないことに気付けるかどうかは、場数と鋭敏な感覚を持った者で無いと悟れないのだ。


 店が閉まった後に、闇の牙の追手の頭が俺の店の扉を叩いた。

 そして、男は俺に土下座して懇願する。

料理人(マギュレプステ)よ、頼む組織に戻ってくれ。実は組織が壊滅の危機なんだ! 頼む!」

 は? 俺はもう『闇の牙』を抜けた身だぞ? 

 え、依頼人が『闇の牙』をどうやら潰す気だと?

 え、ギエロア大王国が依頼人って...俺にそんなこと言っちゃ駄目だろう。

 え、あの化け物が暗殺対象じゃないって? 知らんがな...んなこと。

 俺達はその依頼を断り、その男に告げる。

「俺達に構うな。もし構うなら俺がお前達をこの世から消してやる」

 追手の男は、項垂れながらも俺達に告げる。

 「どっちにしろ『闇の牙』はお仕舞いだ。ギエロアの暗部『猿』が出張って来ているからな」

 男はそれだけ告げると店から出て行った。


 それから二週間後にサラがいなくなった。

 そして店の扉に挟まれた一枚の暗号文。

 その手紙には、サラは預かったサラを助けたければ帰還しろとあった。
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