第127話 絆

文字数 1,316文字

 私はガルバルバ・イルガリア。

 インルガリア王国の第1王子だ。

 現在、ヒカノ城砦で、500の義勇軍を率いて立て籠もっている。



「殿下、配置に着きました! 間もなく王国軍2500が到着すると報せがありました!」

「ご苦労! 作戦通り頼む!」

「はっ!」

 くっ、流石は我が師アイスナルド・ゼークド伯。

 たった2500名しか、釣れなかったか!

 只、其れも計算に入れているとは、怖ろしい。

 稀代の革命家シル・ミケラン。

 言葉で、我ら北西諸国(シルフィ族の国)の王子達に(自由)を語り、軍略を授けた男。

 我らは稀代の革命家の手の平で、踊る只の駒に過ぎないのかも知れん!

 だが、我らの心を殴り、心を掴み、心を揺り動かしたのも事実。

 シルフィは自由を求める。

 父の苦悩を解放するには、私が動くしかない。

 馬鹿なことをしている自覚はある。

 決して父が私を許さないと言うことも理解している。

 だが、尊敬する。

 (いや)、愛する父に楽になって貰いたいだけ。

 それだけの為に、多くの者が死ぬだろう。

 其れも全て、私が背負って冥府へ持って行く。



「殿下、王国軍が到着しました! 王国軍の将軍ゼークド伯が、戦いの前に話をしたいと申しておりますが?」

 ふむ、話をすることは出来ない。

 稀代の革命家は言った。

 賽は投げられたと。

 投げられた賽を戻すことは、器に入れた水を溢し、その水を元に戻す如く難しいと。

 最後まで遣り遂げる覚悟がないのであれば、聞き流せと。

 我ら北西諸国(シルフィ族の国)の王子達は、一瞬逡巡する。

 ゴクリ、......誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

 迷いがあるなら止めろ! お前達のお遊びに付き合うほど暇じゃない!

 稀代の革命家は静かに、私達を諭す。

 自分の名誉か、父の苦しみを解き放つか。

 私は父の日記を思い起こした。

 “我は民に仕えし者。私欲を望まず。我が自由も民に捧げ奉仕する者なり”

 何故、父だけが苦しまなければならない。

 理不尽ではないか。

 誰か一人の苦しみの上に成り立つ自由の幸せなど、本当の自由ではない。

 私は決心し、革命の一員となった。

 その場で語る戦略と軍略。

 この男は、何処まで先の先まで読んでいるのか。

 私を始め北西諸国(シルフィ族の国)の王子達は、戦慄を隠せなかった。


 父上、師匠、不肖の息子を、不肖の弟子を、許してくれとは申しません。

 只、私と貴方方との絆だけは、嘘偽りない事を信じて欲しい。

 身勝手な言い分であることは、重々承知していますが、どうか信じて頂きたい!

 そして、己が信じた道を進む不肖の息子を、不肖の弟子をお裁き下さい!



「作戦開始! 自由の旗の下に!」

「「「おおう! 自由の旗の下に!」」」

 私の号令で、作戦は開始された。

 後戻りの出来ない地獄に、私は敬愛する師匠を引きずり込むのだった。



 私はガルバルバ・イルガリア。

 インルガリア王国の第1王子にして、愚かなる反逆者だ! 
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