第93話 クローマ王国

文字数 1,487文字

 私はアラート・レーベル。

 元ミダス王国、第3防衛戦士団の兵士だ。

 我が第3、第4防衛戦士団はシリウス王国との国境に急行した。

 シリウス王国の全兵力と言っても過言ではない軍を演習と称して、我が国との国境付近に展開していた。

 一方、デネブ王国が我が国に侵入し、その対応に金薔薇騎士団が出撃している。

 2カ国に依る挟撃作戦とは、我がミダスを舐めている。

 我がミダスがシリウスとデネブ如きに負ける訳がない。

 私はそう確信していたし、実際シリウス国軍5000も我が防衛戦士団と第4防衛戦士団で容易く撃退出来ると考えていた。

 しかし、蓋を開けると戦況は思わしくはない。

 何故なら、シリウス王国の軍に異形の軍団がおり、その軍団の攻撃に依り我が第3防衛戦士団は苦戦を強いられていた。

「アッバースの巨人兵団...。」

 その異形の軍団は、アルグリア大陸北西の雄であるアッバース王国の巨人兵団だった。

 その攻撃力と防御力に我が第3防衛戦士団は、一進一退の攻防を繰り返していた。

「なっ! 上空に敵発見!」

 そんな我らの上空から、グリフォンの群れが強襲を掛けてきた。

 魔獣を使役するとは、これはシリウスの技なのか? アッバースの技か?

 不意打ちの上空からの攻撃に依り我が第3防衛戦士団は、その攻勢に耐えきれず敗走した。

 そして、王都へ帰還した我らを待っていたのは金薔薇騎士団の壊滅の報せだった。


 レクリア王国はスピカ・カペラ連合軍に依り壊滅した。

 ナリス王国はベガ王国軍に依り壊滅した。

 そして、我がミダス王国はベガ・シリウス・デネブ・スピカ・カペラ・リゲル西方諸国連合軍に依り壊滅した。

 我が主君であるレグリツァ・ミダス陛下は首を落とされ、王族の血脈は全て斬首となった。

 西方諸国連合軍が何故我が国を含む西方三国を侵略したのか?

 その答えは簡単に明かされた。

 旧クローマ王国の最後の王リステッド・クローマが長子であるミルテッド・クローマの子孫に依るクローマ王国の再興であった。

 その後ろ盾になったのが、正義の剣を標榜するアッバース王国だった。

 アッバース曰く、西方三国は正統なる者が治めるべし。

 クローマ王国の長子が兄弟の不和を憂い王位継承を放棄してまで、守りたかった兄弟の絆をその想いを踏みにじり続ける西方三国に正義の鉄槌を下すべし。

 傲慢なる言い様である。

 しかし、その傲慢を通せる力と正義をアッバース王国は行使する。

 喩えアッバース以外の全ての国が敵に回ろうとも、アッバースは己が正義の為に命を懸ける。

 それがアッバース王国が私利私欲で戦を行わない国だとアルグリアの国々は知っている。

 
 私達は捕虜となったが、クローマ王国再興が布告されると解放された。

 そして、クローマ王国に兵士として仕える者は旧ミダス王国の待遇で再登用するとあった。

 正統なる子孫? クローマ王国? そんな800年も昔の王国が何だって言うんだ?

 私はミダス王国の民であり、ミダス王に忠誠を誓った者だ。

 私は戦争孤児だった。

 私の両親は戦争で亡くなった。

 国境付近の村は、いつ他国から攻め込まれるか解らない。

 私は力が欲しかった。

 そして、国を守る防衛戦士団の兵士となった。

 国が潰れたから、その国を潰した国に仕官する?

 馬鹿を言え! 巫山戯るな!

 どうせ1人者だ。

 冒険者でも何でも食い繋ぐことは出来る。

 そして、私は流浪者となった。
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