第43話 白猿

文字数 1,632文字

 我はエゴイスト。

 古の盟約の獣の1柱、《白猿》なり。

 我は群れない。

 我は媚びない。

 我は唯1人、孤高なり。

 ここ華厦山に訪れるものがいなくなって数百年。

 我は我が道を突き極める。我の盟約した使命は“天上天下唯我独尊”。

 我は華厦山に於いて、己を貫くのみ。

 ほう、我が縄張りに侵入するか? 面白い、我が其のものの道を終わらせてくれよう。

『我こそはエゴイスト! 華厦山の主にして盟約の守護者! 我が盟約に従い其の方らの道を質さん!』

 我が其のもの達を睥睨すると、エルフの少年がペコリと頭を下げる。

「はじめまして、こんにちは。僕ビクトリアスと言います。突然お邪魔してごめんなさい。」

 我は問う。

『何ゆえ、この華厦山に踏み入った?』

 少年は答える。

「白厦草を採取に来ました。どこに在るか知りませんか?」

 我は答え問う。

『この華厦山に在る全てのものは我のものである。其れを欲するは我が許さん! 我が道を行くと言うなら、我が其の道を質さん!』

 少年は答え問う。

「我が道と言うのが白厦草の採取のことなら、僕は其の道を諦めません。我が其の道を質さんが、白厦草の採取を邪魔すると言うことなら、

僕がお猿さんに問う。あなたの道とは盟約とは何ぞや?」

 我は答える。

『我が道とは、我が欲す道なり。この世(華厦山)で我は我を押し通す。故に我は我唯1人を尊ぶ! 我が誓約とは“天上天下唯我独尊”なり。故に我は我が道を押し通す!』

 少年は問う。

「お猿さん、貴方の道は矛盾なり。我唯1人を尊ぶとは、我唯1人を卑しむと同義なり。故にお猿さん、貴方の道は美しくない! お猿さん、貴方の盟約も又矛盾なり。その道を押し通すは、その道を引き塞ぐと同義なり。故にお猿さん、貴方の道は尊くない!」

 我は否定し告げる。

『無茶苦茶だ! 我を否定するなら我を力で以て否定してみよ!』

 少年は呆れ問う。

「お猿さん、言葉で相手を納得させられないから、力で相手を納得させるって我が儘な子供だよ? “天上天下唯我独尊”って凄く格好良い盟約だ。でも貴方の行動はその盟約を否定し侮辱して格好悪い。故に貴方は既に自分の盟約を破っているんじゃあないかな?」

 ぐっぬぬぬぬぬ! ああ言えば、こう言う。

 何て奴だ。きっいいいいい!

『なあ、ゴイス? お前さ俺らの中(古の誓約の獣)で一番弱い癖に何先から調子付いてるの?』

 え、えええええ! 何故、《黒獣》エクリプス! お前が此処にいる?

「ええ、ゴイス。貴方何か格好悪いわよ?」

 え、えええええ! 何故、《氷狼》エンプレス! お前が此処にいる?

「おいら、ゴイスの負けだと思うぞ?」

 え、えええええ! 何故、《麒麟》パラグラム! お前が此処にいる?

「ゴイスちゃん、私もそう思うわ。諦めなさい!」

 え、えええええ! 何故、《海竜》リヴァイアサン! お前が此処にいる?

 う、う、うぇ~ん! 神様の嘘付き! 他の古の盟約の獣は誰も華厦山には来れない。

 だから此処、華厦山で好きに引き籠って良いって言ったじゃないか! 

 だから我は“天上天下唯我独尊”の盟約を結んだのに! うぇ~ん! 

 奴等、滅茶苦茶するんだぞ! うぇ~ん!

 ひっく、ひっく、ひっく。

 我が泣き出すとエルフの少年だけが優しく我を慰めてくれた。

 何て良い奴なんだ。

 そして、こんな無法者(アンタッチャブル)を引き連れるこ奴は一体何者なんだ? 

 我は少年に問う。

 少年が何故か恥ずかしそうにビシッとポーズを決めて我に答える。

「僕が“何者”だって? 僕はエゴイスト! お前の願いを叶える者だ!」

『じゃあ直ぐ! この華厦山から出ていってくれ! 我を1人にしてくれ!』

 我は乞い願い、白厦草を山程渡し奴等にお引き取り願った。
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