第124話 アッバースの悪夢

文字数 1,312文字

 私はブルリク・カルマート。

 アッバース王国の伯爵であり、宰相である。

 今日は巷で噂の“アッバースの悪夢”の話をしたいと思う。

 あれはまさに悪夢だった。

 我が国が誇る巨神騎士団の団長が、“正義の審判”に依り引き抜かれた。

 ああ、正義の審判とは、力なき正義は正義に非ずのジャイアント族の先人が作りし儀式だ。

 この儀式で、お互いの言い分を賭けて決闘をし、勝った方が審判に賭けた“正義”を得ると言う、私からしたら

としか言えないものだった。

 何故なら、どんな理不尽な要求でも、勝った者が正義とは、何時の時代の話なんだと私は想っている。

 まあ、言わないがな。

 良いかい、ジャイアントは脳筋が多いんだ。

 だから、私は宰相としていつも治政で苦しんでいるんだ。

 こんな馬鹿げた風習など無くなれと思っていた矢先に、件の第3皇子が現れたんだ。

 この第3皇子の名は、ビクトリアス・エルブリタニア。

 そう中央の大国であるエルブリタニア帝国の皇子なんだ。

 伝え聞く処に依ると、オルスカの闘技大会の勝者で、獣王を降した者だと言う。

 それが、たった12歳の少年だと言うから、驚くよりも本当かと疑ったもんだ。

 だが、その実力は本物だったんだ。

 クローマ王国の再興の為に、我がアッバースは動いた。

 そして、その尖兵として動いたのが西方諸国連合である。

 西方諸国6ヵ国は協力と言う名の脅迫に依って、クローマ王国の再興を果たした。

 しかし、再興の課程で西方諸国連合軍が次々に、件の第3皇子に依って敗走させられた。

 それも十数人の集団に依ってだ。

 たった十数人の者達だけで、西方諸国連合軍25000が敗走したんだ。

 悪い冗談としか言えない。

 アッバースの正義に賛同し、協力した国々が敗走した。

 アッバースは正義の剣の元、件の第3皇子。

 ひいては、エルバビロニア帝国に正義の剣を振るわねばならない。

 ところであったが、クローマ王国再興を主導したアーク傭兵騎士団団長は、第一等命令(件の第3皇子への接触禁止)を早い段階から発していた。

 命令を聞かなかったのは、西方諸国連合国の方であった。

 助かった、エルバビロニアとの戦など、悪夢でしかない。

 そう、西方諸国連合国にしてもだ。

 それだけ、エルブリタニアは強大な国なのだ。


 そして、悪夢がアッバースにやってきた。

 その悪夢は、騎士団長を引き抜き、陛下を()ちのめし、近衛騎士団を薙ぎ倒し、兵団を打ち倒した。

 それも、“正義の審判”の名の下に、...悪夢である。

 この化物皇子に野心があれば、アッバース王国は第3皇子の手に落ちていた。

 助かった、私は本心から、そう思った。

 これがアッバースの悪夢の話だ。

 ああ、ハミルクリニカ陛下はお元気だ。

 なんと件の化物皇子と友誼を交わしたのだ。

 流石は陛下、このアッバースの危機を救うとは...。


 私はブルリク・カルマート。

 アッバースの宰相であり、普精霊人(ヒューマン)種だ。
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