第54話 執事の苦悩

文字数 1,394文字

 私はビクター・シュトロゲン。

 執事です。

 現在、ビクトリアス・エルブリタニア殿下にお仕えして、最大の危機に直面しています。

 殿下が家出してしまったのです。

 そして、メイドのメアリーの言葉が私の繊細な心臓を、ブチ壊したのです。

「殿下、お漏らしして泣いてましたよ!」

 激怒したメイドに叱られる執事長...他のメイドも皆、腰に手を当て激怒しているようです。

 まあ、メイド達は良いのです。

 殿下の為に怒っているのですから。

 しかし、殿下が...お漏らしをして...泣いていた? 

 ああ、殿下。

 お許し下さい、このビクター一生の不覚です。

 この締め付けられる胸の痛みが、幼き日の殿下を思い出させます。

「グスッ、グスッ。ビクター、ごめんなさい。僕、オネショしちゃった」

「殿下、嘘を付かずに本当のことを仰いましたね。偉いですね。大丈夫です、殿下。大人になればオネショは直りますよ」

 何てことだ。

 殿下に恥を掻かせてしまうなんて! あああああ、私は思わず自分の髪を掻き毟る。

「執事長、(ズラ)が落ちて、大切な髪が......」

 メアリーが私の両手を指差しながら、不吉なことを言い放つ。

 え、ゴクリ。

 私は自分の両手を、恐る恐る目前に掲げる。

「ぎゃあああああ~!」

 私の戦友()が、8人もお亡くなりになった事実に衝撃の余り絶叫してしまいました。


 私は離宮の中庭にある木の根本に穴を掘り、哀悼の意を伝える。

 あなた達の死は決して無駄にはしません。

 8人の戦友に別れを告げた私に、緊急の念話が入った。

 え、弟子1号が壊れた? え、殿下の近況報告だって? 弟子1号め、私に黙っていたな!


「放せえええええ! 我に寝る暇などないわ~!」

 ガン! ゴキッ! メキョ!

 私は発狂した弟子1号に天罰を降した。

 あ、おい? 弟子! 弟子! 弟子1号! 

 私としたことが、殿下の情報を聞き出す前にヤっちまった。

 私は弟子1号の蘇生を試みる。

 はっ! 心臓が止まってる? ヤバい! ヤバい! ヤバい! 死ぬ前に、殿下の情報を寄越せ! 弟子1号!


 弟子1号の部下達から殿下の状況を聞く。

 ふむふむ、ふむ。

 殿下...立派になられましたな。

 殿下の武勇伝を聞き、臣は頭が禿げそうです。


「お疲れ、弟子1号。安心しろ、アルバビロニア大帝国は健在だ。少し休め」

 私は弟子1号を労る。

 コイツは根が真面目だから、根を詰め易い。

「ぎゃあああああ! 嘘だ! 嘘だ、嘘だ! 師匠が我に微笑むだと? 有り得ぬ、有り得ぬ、有り得ぬ! 師匠が我に休めだと? 有り得ぬ、有り得ぬ、有り得ぬ!」

 ピキッ! ガン! ゴキッ! メキ! ツーーーーーーーー。

 あ、ヤっちまった。

 弟子1号の部下達が慌て出す。

 こう見えて人望はある。

 生真面目だが、部下思いの良い奴だ。

 仕方ない。

 弟子1号は少しの間、休ませよう。

 え、代わりがいない? お前達の前にいるだろう? 

 そうだ、私だ! 異論は認めない! さあ! 殿下の情報を集めて来い!


 私は、殿下の情報欲しさに弟子1号を、馘首(くび)にした...。
 
 反省はするが、後悔はしていない。
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