第123話 クローマの憂鬱

文字数 1,171文字

 私はドリトス・トルクス。

 アーク傭兵騎士団団長であり、クローマ王国近衛騎士団団長である。

 高祖ミルテッド・クローマ様に付き従った者達の末裔が中軸になり、構成されているのがアーク傭兵騎士団である。

 アーク傭兵騎士団は、アルグリア大陸の紛争地帯に介入し、実戦の戦闘経験を積み、各地の情勢を探る事を目的としている。

 私がクローマ王国に不在時の団長代理は、副団長ウルクル・ウェンブリ。

 私の副官にして、沈着冷静を絵に描いたような真面目な男だ。

 そして、私の手足となってくれているのが、ジルベルト・ケンドス。

 アーク傭兵騎士団では第三席の地位にいる豪放磊落な男だ。


「団長、...“アッバースの悪夢”を聞かれましたか?」

 副団長のウェンブリが、生真面目な顔で私に詰め寄る。

「おいおい、ウルクル! そんなに()っ付くな、団長も呆れているぞ?」

()っ付いてなどいないぞ、ジル。私は只、我がクローマの行く末を案じているだけだ」

 ふふふ、ウルクルとジルは良い相棒(コンビ)だ。


「ああ、聞いている。“アッバースの悪夢”とは、良く言ったものだ。件の第3皇子はやはり、藪の中の蛇、...それも特大の大蛇だった。いや、龍に成るやも知れんな...」

「団長、暢気(のんき)なことを...」

「ふっははははは! それでこそ、団長よ! 案じ過ぎるとハゲるぞ、ウルクル...」

 件の第3皇子が、我がクローマ王国にとって憂鬱な存在なのは致し方ない。

 西方諸国連合軍25000を、実質十数人の集団で敗走させたのだから。

 はてさて、アッバースの正義として、件の第3皇子を討つとはならなくて良かった。

 西方諸国連合もアッバース王国とエルブリタニア帝国との大戦など、それこそ悪夢以外の何ものでもあるまい。

 しかし、アッバース王国の近衛騎士団1000名と兵団3000名、狂戦士(バーサ―カー)の異名を持つハミルクリニカ陛下を子供のように扱ったとはな...。

 信じがたいことだが、事実は事実として理解せねばならない。

 化物だな、...まるで十の災厄(アンタッチャブル)ではないか?

 我らアーク傭兵騎士団が、ひいてはクローマ王国が、西方諸国連合・アッバース王国の二の舞にな為らないように()ねば成るまい。

 オルスカの獣王を倒し件を、何かの間違いと思っていた、あの頃の私を叱責したいな。

 ふふふふふ、面白い。

 化物が相手ならば、化物に適した戦い方が必要だ。

 先ずは情報収集だな、それからだ。

 2人に情報収集を命じた私は独りごちる。

「化物には、化物を...」


 私はドリトス・トルクス。

 アーク傭兵騎士団団長であり、クローマ王国を守護する者だ。
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