第58話 大丈夫?

文字数 1,401文字

 俺はレイ・ホウセン。

 最強の武を目指す、

最強の武だ。

 こんな俺に付いて来てくれた部下達に、デソロモア王国で別れを告げられた。

 チョウ・ライゼン。いや、もうチョウ・デソロモア陛下と呼ばないといけないな。

 魔武乱闘(バトルロワイアル)を制し、新たな魔王と為ったチョウはやっぱり凄い奴だった。

 チョウ・デソロモアと2000人の配下達は、何故か俺と別れる時に今生の別れのように号泣していた。

「レイ様、生き抜いて下さい!」

「最強の武を手にいれて下さい。でも、お命はお大事に!」

「何故、レイ様が師匠の特訓(あの地獄)を嬉々として受けられるか解りました! レイ様も師匠と同じ特別な(逝っちゃてる)人だったんですね!」

 別れを告げた配下達は、何故か嬉しそうに配下達同士で抱き合って喜んでいた。

 俺って人望がなかったんだなって呟く俺に、レディ先輩はこう言った。

「レイ、お前は確かにビズ様(残念な天然さん)の一番弟子だ」


 デソロモア王国を後にした俺達一行は、デソロモア王国領内にある進入禁止区域『ヘクサ神林』へ向かった。

 そこは、十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《千手蜘蛛》の縄張り(テリトリー)だ。

 進入した俺達に襲い掛かるアラクネの群れ。

 アラクネの粘着質で、大きな木の幹でも軽く切断する剛性を持つ糸に気を付けながら、俺達は神林の奥へ進んで行く。

 まさか、本当に十の災厄(アンタッチャブル)の縄張りに入る日が来るとは、俺は己の運命に感謝する。

 師匠に巡り会っていなければ、俺はここまでの武の高みには来れなかったのは確かだ。

 毎日、師匠を始め十の災厄(アンタッチャブル)達と死合えるなんて、俺は己の運命に感謝する。

 圧倒的武力を持つ十の災厄(アンタッチャブル)をも凌駕する師匠の武に、俺は未来の俺の姿を見る。

 いつか、この師匠を倒して最強の武を手に入れる。

 俺は、己の武への渇望に打ち震える。

 しかし、そんな俺の想いを遥かに越えて行く師匠。

『そなたは、一体何者なのじゃ?』

 師匠に十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《千手蜘蛛》アンチノミーが問い掛ける。

 その光景が俺の脳裏を、既視感が過る。

 師匠は何故か恥ずかしそうにビシッとポーズを決めて、こう言った。

「僕が“何者”だって? 僕はアンチノミー! お前の願いを叶える者だ!」

 そして、師匠は山脈の大きさを誇る十の災厄(アンタッチャブル)、《千手蜘蛛》アンチノミーと結婚した。

 すげー、格好良い! 流石、師匠だ! なんて大きな男なんだ!

 ただ、え、大丈夫っすか? そんなあっさりと結婚して? と思ったけど...。

 隣にいるレディ先輩は、遠い目をして達観している。


 ここは、アゾット炎獄。

 誰も進入出来ない火の世界だ。

 何故なら、進入したら燃えちゃうからだ。

 え、何故俺達は、この灼熱の地を気楽に闊歩しているんだ?

 レディ先輩は、静かに微笑みながら、こう答えた。

ビズ様(残念な天然さん)だからだ。お前も慣れるよ、俺も慣れたからな」

 俺は、以前レディ先輩が言った言葉を思い出した。
 

「“化け物”って知ってるか? 為れると元には戻れない。お前も為れるよ、俺も為れたからな」
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