第15話 円剣

文字数 2,282文字

 俺はジャンクス・デルパオロ。

 2ヶ月でクビになった帝国第3皇子の元剣術指南役だ。

 まあ、それで

に殿下の剣術指南役を任せられたのは僥倖だった。

 しかし、師匠への報告で

るとは。とほほ。

 確か

の父親が、亡くなってからか......

が、あんな風に腑抜けになってしまったのは...。

 俺が今、俺でいられるのは

のお蔭だ。

 最強を目指し日々、俺と修行に明け暮れたあの頃が懐かしい。

 

の攻撃を日々受け続けた俺の防御術は、円熟を増して剣盾術へと昇華したのだった。

 そんな

も離宮へ通い始めて数ヶ月、まさかこのような日が来るとは、感無量。

 それ以外にない。

 日々、離宮のメイド達を、手当たり次第に口説いて土下座までしているらしいが、

が女を口説くなど論外。

 

を知っている者からすれば、

が女と付き合うような

ことをする訳がない。

 まあ、どうせ殿下から失望してもらって解雇してもらう為だろうな。

 

は怠ける為なら、男の誇りなど全く気にしない奴だからな。

 まあ、隠者の手を使って殿下に

を、剣術指南役から解雇させる計画が失敗したと聞いたときは、呆れを通り越して殺意が湧いたが。

 

は怠ける為なら限度がないと改めて知った。

 隠剣を宥めるのに苦労したぜ。

 うん? 

 念話か...どうやら仕事らしい。

 俺は、帝国護剣だけが持つ古代遺物(アーティファクト)の首飾りを握り締め、念話を待った。

『円剣。悪い知らせと良い知らせがある』

 おいおい、

から念話が来た時点で、大いに悪い話と途轍もなく悪い話しかないだろう。

『どうした? ギエロアでも攻めてきたか?』

『そんな些事ではない。』

 何だと! ギエロアが些事? 

 ま、まさか! アルバビロニアが攻めて来たのか! 

 マジか? ゴクリ。

 俺に戦慄が走った。

 アルバビロニア大帝国。

 同じ祖先を持つエルフの大国。

 現在同盟中だが、アレキサンドロス・アルバビロニア大帝に信義がないのは、アルグリア大陸に知らない者はおるまい。

 糞! 

 迂闊だった! 

 隠者の手を以てしても探り得なかったか!

『良い知らせは、殿下がお漏らしをして、グスっ。グスっ。って泣いている。うふふふふふ。』

 は? 俺の思考が固まった。

 え? 殿下?

『悪い知らせは、隠剣が双剣を殺しに向かった

知れないってことだ。うふふふふふ。まあ、円剣。お前には知らせておくよ。じゃあな』

 は? 

 俺の思考が動き出す。

 

がやったのか?

 

なら怠ける為に、殿下に失禁させることも厭わないはず。

 そして、殿下を失禁させたことに激怒した隠剣が、

を殺しに向かったと言うことか! 

 俺は完全に理解した! 

 とうとう、そこまでやっちまったか! 

 糞! 

 隠剣は殿下が絡むと只の

鹿

になるから、ヤバいって!

 俺は駆け出した、

の邸宅へ向かって全力で!

 うおおおおお! 

 間に合えええええ! 

 ドタドタ。......俺は鈍足だった。

 ええい、

か......。

 俺が着いた時には2人は

の庭で対峙していた。

 一触即発の雰囲気の中、俺は2人の間に割って入った。

「ようお2人さん? どうしたんだ?」

 俺が割って入ったのが合図となったのか、2人は一瞬で間を詰め斬り掛かった。

 だが、俺の右手の剣で隠剣の剣を跳ね返し、左手の盾で

の双剣を跳ね返す。

 剣を跳ね返された2人は一瞬硬直するも再度斬り掛かるが、俺の防御圏内では如何なる攻撃も無意味、円を描くが如く2人の剣を跳ね返す。

 だが、2人もそろそろ気付くだろう。

 

でやり合えば良いと。

 だって俺、鈍足だから2人の足には追い付けないのだから。

 く。

 間に合ってくれ!

 俺は心の中で願ったのだった。

「グっ!」「グっハっ!」

 間に合ったか!

 2人は頭から血を流しながらも対峙したままだったが、

「グっガっ!」「ブっガっ!」

「やっガっ!」「しっガっ!」

「たっグっ!」「だっゲっ!」

 ボコボコにされ血塗れになって、

っていく2人。

 普通の人は、この光景を見たら遣り過ぎだって言うだろう。

 でも、俺達の間ではこれは挨拶にもならない。

 日常茶飯事なことだった。

 地面に倒れ付した2人。

 ピクピク。

 2人はまだ生きてるようだ。

 へえ。流石の2人だ。

 腕と足が変な形に折れ曲がってるが、確かに生きていた。

 そんな2人を見下ろす人物。

 俺が、

人物。

 そして、俺を現在進行形でボコボコにして、

らせていく人物こそが......。

 グはっ! ボゴっ! 

 消え行く意識の中、この理不尽の塊が俺達3人の師匠......バタリっ。


 3人を見下ろす杖を突いた好好爺とした人物が呟く、

「飯はまだかのう? のう、婆さんや」

 ......その問いに答える者は誰もいなかった。

 ちなみにこの人物は独身の一人身だった......。
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