第110話 騎士と皇子

文字数 1,249文字

 俺はエクリプス。

 漆黒の獣だ。

 巷では、《黒獣》と呼ばれている。


 ビズと一緒にいると飽きない。

 襲ってくる相手を

殺すなと言われている。

 それは別に良い。

 だが、一度目は許すが二度目はない!

 戦う覚悟のない者が、俺を襲うとかありえない。

 俺だけじゃない。

 十の災厄(アンタッチャブル)と呼ばれる古の盟約の獣に対して、死ねと言っているのに等しい。

 俺達の本能が、それを拒絶する。

 しかし、流石は我が友ビズだ。

 一回とは言え、我らに譲歩させるとは。

 但し、ビズに対しては俺が許さない。

 ベガ王国の騎士が、激高してビズを切り伏せようとした。

 ビズなら簡単に交わせるし、威圧だけで打ち倒しただろう。

 だが、それを俺は許さない。

 我が友に対する攻撃は、俺に対する攻撃以上に俺の本能が許さない。

 その後、ベガ王国のなんちゃら騎士団を敗走させたら、ベガ王国全軍が逃げ散った。

 ふん! 情けない奴らめ!

 逃げるのなら最初から突っかかって来るな!


 現在、俺達はアッバース王国の王都イブンにいる。

 ビズが

を登用する為だ。

 それにしてもビズは物知りさんだ。

 その人物の聞き込みもせずに、初めての場所で迷いもせずに

の住処に到着した。


「失礼します! ダロス・アジタートさん、お話があって来ました!」

 ビズが扉を叩き、

の名を呼ぶ。

 すると、扉が開きその人物ダロス・アジタートが現れた。

 その身長は3メートル位ある。

 扉も4メートルはあるだろう。

 所謂、ジャイアントと呼ばれる種族だ。


「何者だ、お主達? 只者ではない気を纏っているな?」

 ダロス・アジタートは、何故か戦闘準備万全の体制で俺達を迎えた。

「こんにちは、初めまして僕ビクトリアスと言います。今日は突然お邪魔して、ごめんなさい。ダロス・アジタートさん、貴方を勧誘に来ました!」

「はっ? 何を言っているのだ、お主。俺はアッバース王国の騎士だぞ?」

「はい、存じています。そこで、“正義の審判”をお願いします!」

「はっ? お主がか? それとも他の者がか?」

 唖然とするダロス・アジタートに、ビズは容赦なく言い切る。

「勿論、僕ですよ! よろしくお願いします!」


 アッバースの誇りとは、正義であり、力であり、強さである。

 力なき正義は、正義に非ず。

 その為にアッバースには、否。

 ジャイアントには、古くからの風習がある。

 “正義の審判”と言われる決闘に勝った方の言い分に従う掟である。

 どんなに理不尽でも、その決闘の勝者こそが正義であると言う、古くからのジャイアントの自己証明の名残である。


 俺はエクリプス。

 理不尽な天罰と呼ばれる十の災厄(アンタッチャブル)の一角。

 我の友は、そんな俺から見ても理不尽だと思う。
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