第48話 雲の如く

文字数 1,943文字

 私はチョウ・ライゼン。

 元フューダー大王国将軍です。

 私の憧れた“最強の武”レイ・ホウセン。

 事もあろうに大帝ベルセルト・フューダー陛下と麺料理で、豚骨(濃厚)味と塩白湯(あっさり)味で口論になり、大帝をブッ飛ばすとは...。

 レイ様の父上、ガイ・ホウセン閣下のお陰で、何とか命だけは助かり国外追放処分で済んだことは幸いだった。

 私はレイ様を慕う部下達とフューダー大王国を出奔し、“最強の武”レイ・ホウセンの行く末を確かめる為に主と伴にアルグリア大陸を雲のように漂っていた。

 ここはオルスカ王国、獣王が治める強国。

 丁度、オルスカ王国闘技会が開催される時期に、この国に来れたことは重畳だった。

 レイ様は流石の一言で、闘技会決勝戦に危なげなく進んだ。

 そして、決勝の相手はまだ子供と言って良いエルフの少年だった。


「小僧! ここまで良く勝ち残った! だが俺は最強の武を受け継ぐレイ・ホウセン! ......」

 そう名乗りを挙げ、手加減なしの方天画戟に依る、最強の一撃が少年を襲う。

 流石、レイ様。

 子供にでも全力で相手をする“武の心得”に私は感服した。


 え、レイ様が! 最強の武が

! 如何様? ではない。

 圧倒的な武の差が垣間見えた。

 あの少年は強い。

 いや、強すぎる。

 あの最強の武がまるで、子供扱いだった。

 嘘だと拒絶するのは容易い。

 だが、戦場では事実を受け止め、その事実に対応することが出来ない者は生き残れない。

 初代獣王の言葉が私の心に響く、“強い者が勝ち残るのではない、勝ち残った者が強いのだ”...くっ、至言だ。

 オルスカの王宮で、闘技会終了後の獣王主催の宴が開かれた。

 私達も準優勝者の従者として参加している。

 目的は“最強の武”を倒した件の少年に会うことだった。

 会ってどうしても確かめたいことがある。

 それは

“最強の武”私の主も同じようで、漸く見つけた少年は王宮の中庭で、連れと覚しき者達と賑やかに盛り上がっている。

 私達はその集団に近寄ろうとするも、近寄れなかった。

 こ、これは私の本能が告げる。

 危険だ、近付くなと。

 な、なんだ! この威圧(プレッシャー)は!


「レイ様! これ以上は危険です。一度お引きく、......」

 私の意識はそこでなくなった。

 そうなくなった。

 戦場なら私の命はそこまでだった。

 意識を取り戻した私は、その事実に打ちのめされた。

 武人として情けなかった。

 しかし、件の少年の集団は私に、いや私達に落ち込む暇も与えてくれはしなかった。

 ここは王宮の中庭の一画。

 

“最強の武”が無惨に転がされている。

 私の部下達も同様だ。

 勿論、私もだ。

 あれから意識を取り戻した私達は、その集団に近寄ろうとするもその度に意識を失い。

 給仕の邪魔だと、中庭に打ち捨てられていた。

 

“最強の武”が給仕と話終わった少年の隙を付き、どうしても確かめたい事を問う。

「少年よ。貴方は何故そんなに強いのですか?」

 

“最強の武”がそう問うと少年は、そこで初めて今話している相手が決勝戦の相手と認識したらしく、ペコリと頭を下げ謝罪する。

 そして、

“最強の武”に答える。

「僕は強くないです。だから、強くなる為に旅をしているんです」

 な、なんだと。

 少年が強くないなら、その少年に負けた

“最強の武”の立場は? その

“最強の武”に憧れ魅せられ付き従う私達は? 再度、

“最強の武”が問う。

「貴方の望む強さとは、どれ程のものなのですか?」

 少年は、毅然と答える。

「アルグリア大陸制覇を、僕1人で為し遂げられるくらいです」

 え、えええええ? 

“最強の武”を倒し、

“最強の武”の少年の言葉でなければ、一笑に付す荒唐無稽な内容に私達は驚愕する。

 少年の様子から冗談ではないと解ってしまう。

 少年の仲間達の雰囲気と

威圧から、叶わぬ事ではないと解ってしまう。

 すると、私の主である

“最強の武”が歓喜の表情で、

“最強の武”の少年に問い掛けた。

 貴方は一体何者ですかと。

 少年は何故か恥ずかしそうにビシッとポーズを決めこう言った。


「僕が“何者”だって? 僕はレイ・ホウセン! お前の願いを叶える者だ!」

 そして、私達は件のエルフの少年《ビクトリアス・エルブリタニア》殿下の

になった。
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