第107話 知恵の悪魔

文字数 1,561文字

 俺はレディオス・ベクシス。

 

諜謀機関《隠者の手》所属の工作員、暗号名(コードネーム)オピニオン(知恵の使者)』だ。

 現在はエルバビロニア帝国第3皇子、ビクトリアス・エルブリタニア殿下の従者をしている。

 殿下の妹君であるローゼティアス皇女殿下の救出での功績で、殿下は俺を配下として求められた。

 嫌ぁぁぁぁぁ~!

 俺は心の中で盛大に叫び、暴れ抗議した。

 しかし、俺は答えが解る男だ。

 俺がどんなに抵抗しても、殿下の配下に収まると言うことは解っている。

 でも、良いか? 頭で解っていても、心が解りたくないんだ!

 この化物皇子にこれからも付き合うのは、凄く嫌なんだよ!

 何故かって? 決まっているだろう!

 今までも、そしてこれからも殿下は

を必ず起こす!

 これは俺の中で既に答えが出ている。

 ああ、俺の前途に幸あれ!


「レディ、アッバース王国への経路は...」

 殿下が、またヤバいことを言っている。

 現在、俺達は西方に来ている。

 目的は勧誘だ。

 西方三国が統一され、クローマ王国が再興する。

 いつもながら何故それが解る? 否、知っている?

 殿下には公然とした秘密がある。

 しかし、俺はそれを聞けない。

 殿下と付き合っていく上での決まりごと。

 殿下に質問してはいけない。

 それは殿下の従者になった今でも変わらない。

 そう殿下に言われたのだから間違いない。

 俺は間違いだと思いたい。


「レディ、聞いてる?」

 ええ、聞いてますよ。

 この化物皇子様! 何が楽しくてアッバース王国の本拠地へ乗り込むの?

 ええ、



 勧誘ともう一つ目的があるってことも!

 殿下、頼むから静かに行動してくれませんか?

 リゲル王国軍を敗走後、スピカ王国軍・カペラ王国軍・デネブ王国軍・シリウス王国軍を敗走させた。

 まあ、不可抗力なので致し方ないでしょう。

 その後のリゲル王国軍の再度の襲撃に於いては、切れた十の災厄(アンタッチャブル)が殲滅したことも致し方ないでしょう。

 リゲル王国軍が馬鹿なのか、指揮官が馬鹿なのかは解明出来ませんでしたが...。

 但し、ベガ王国との戦いは回避出来たはずだ。

 まあ、ベガの騎士が阿呆だったことは認めよう。

 但し、登用したグリスティス・オールバの無念を晴らす為だけに、ベガ王国の赤鬼騎士団をボコボコにして敗走させたのは頂けない。

 クローマ王国の再興は為った。

 そして、それに協力した西方諸国連合の全ての軍を、完膚なきまでに叩きのめした俺達。

 西方諸国連合軍の後ろ盾が、正義の剣を標榜するアッバースが協力国を叩きのめされて黙っている訳もない。


 今回の旅路で、「殿下、お忍びって意味知ってますか?」って何回聞いたことか...。

 その度に例の如く暖簾に腕押し、殿下は俺を困った子供を見る目で見詰める。

 この残念な天然さんめ! 困った子供は殿下、貴方ですよ!


「ええ、聞いてますよ。...」

 この困った殿下はアッバース王国の王都イブンに向かい、又ヤバいことを起こすだろう。

 殿下、現在の状況から判断すると確実にアッバース王国とエルブリタニア帝国は戦争になりますよ?

 え、大丈夫? 何故? 教えて下さい?

 私が解らない答えを殿下は持っている。

 え、秘密。

 行けば解る?

 ええ、行きますよ。

 解りましたよ。


 俺はレディオス・ベクシス。

 化物皇子の憐れな従者だ。


 レディオス・ベクシス。

 後にアルグリア大陸で、知恵の悪魔と呼ばれ畏れられる男。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み