第96話 スピカ王国

文字数 1,602文字

 我はアークトゥルス・スピカ。

 スピカ国王である。

 アッバース王国の要請と言う名の命令に屈した我がスピカ王国は、プロピーナ騎士団を含む全兵力をレクリア王国に進撃させた。

 レクリア王国の国境の砦は、我が国の総力を以て強襲し陥落させた。

 しかし、我らの軍は囮である。

 レクリア王国の誇る銀狐騎士団を誘い、国境との間の貴族を籠絡した我ら西方三国包囲網軍のカペラ王国軍が奇襲する手筈となっている。

「陛下! 我が侵攻軍がカペラ王国軍と合流! レクリア王国王都フィオリスタに進軍中とのことです!」

 西方三国の一角、レクリア王国も終焉の時を迎える。

 ゴクリ、我が国がそうなっていたかも知れないと想像するだけで悪寒がする。

 それにしても、ベガ・シリウス・デネブ・スピカ・カペラ・リゲルの西方諸国の6カ国を動かしたアッバース王国の軍略には脱帽する。

 それだけの力がありながら天下制覇を目指さないとは、流石《狂国》アッバースである。

 正義の剣を振り翳す正義の王国。

 危ない国である。

 只、我が国もそのアッバースの正義の剣に組みしたことでアッバースの正義に外れなければ、その助力を受けることになる。

 確かに西方三国が併合されて古のクローマ王国が再興する。

 しかし、アッバースの正義に於いて我ら西方諸国6カ国は、クローマ王国の友好国となった。

 我が代では安寧であるが、次代と時が経てばアッバースの正義も変わるかもしれない。

 このアルグリア大陸で生き残るには、一時の気の緩みも許されない。

 気を許せば、西方三国の二の舞になるは我がスピカとなる。


「レクリア王国、陥落! 及びナリス王国陥落! 現在我が軍はレクリア王国の治安維持中とのことです!」

 残るはミダス王国のみか...。

 西方三国として栄えた三国が滅びる。

 栄枯盛衰、我が国もいつか滅びるのであろうか...。


「急報、申し上げます! レクリア王国で治安維持行動中のプロピーナ騎士団が敗走しました!」

 は? 我が国の誇る精鋭騎士団が壊滅? 治安維持で壊滅とはどう言うことなのだ!

「詳細ですが、エルバビロニア帝国第3皇子に依って敗走されたとのことです!」

 な、何だと! エルバビロニア帝国だと! 第3皇子?

 あの、オルスカの獣王を降した帝国の麒麟児か!

 確か、連合軍本部から一切の接触を禁ずと第一等命令がされていたはず...。

「ええい! 続けよ!」

「はっ! 件の皇子一行と銀狐騎士団の騎士が接触、騎士の受け渡しを皇子一行が拒否した為、やむを得ず攻撃したとのことです!」

 くっ、現場の指揮官の優先順位に第一等命令が伝わっていなかったのか?

 しかし、攻撃して返り討ちに会うとは、我が国は良い笑い者ではないか!

 え、それは本当か?

 全員気絶させられて放置されていただと...。

 我が騎士1000余名の誰一人失わなかったことは僥倖であるが、殺さずに気絶させるだけとは...。

 つまり、隔絶した実力差があると言うことだ。

 我が国の精鋭騎士団が赤子同然の扱いを受けた。

 それも十数人の集団にだ...。

「そして、同じくカペラの遊撃強襲部隊も件の皇子一行に敗れました!」

 そうか、では我らが国の騎士が弱いのではなく、件の第3皇子の集団が強いと言うことだ。

 はてさて、西方諸国連合軍本部はどう動く?

 接触禁止とは言え、不可抗力で2カ国の軍が敗走した事実は覆らない。

 その敗走の一端を我が騎士団でなければ気も楽なのだが...。

 エルバビロニア帝国の第3皇子と言えども他国の軍とことを構えたのだ。

 只で済むとは思ってはおるまい!

 しかし、お忍びの旅で他国の精鋭軍を倒すとは、一体如何なる人物なのであろうか...。
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