第33話 ハルベルト山脈

文字数 1,471文字

 俺はレディオス・ベクシス。

 諜謀機関“隠者の手”所属の工作員。

 現在、観察対象者と行動を共にしている。

 その観察対象者は異常だ。

 もう一度言う、異常だ。

 アルグリア大陸の住人で、十の災厄(アンタッチャブル)を倒した者を俺は知らない。

 また、倒そうとは思わない。

 何故なら、縄張りに侵入してゴメンでは済まない。

 最低、所属国家は

するからだ。

 アルグリア大陸の住人は知っている。

 十の災厄(アンタッチャブル)縄張り(テリトリー)には、決して近付いてはいけないと。

 その観察対象者は十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《禍蛇》の番の《巨蛇》ヨルムガルドと《虚蛇》ウロボロスと《黒獣》エクリプスを倒した。

 もう一度言う、倒したんだ。

 そして、初めて知った真実が、十の災厄(アンタッチャブル)は不死身だと言うこと。

 死んでも1日経てば蘇る。

 もう一度言う、蘇る。

 その観察対象者は事もあろうに十の災厄(アンタッチャブル)息子(義理の息子)となり、十の災厄(アンタッチャブル)の友達になった。

 もう一度言う、息子になり友達になった。

 その観察対象者は事もあろうに、十の災厄(アンタッチャブル)を自分の頭の帽子に使ってる。

 もう一度言う、帽子に使ってる。

 そして、その観察対象者が事もあろうに、十の災厄(アンタッチャブル)を頭に乗せアルバビロニア大帝国の帝都プロローズに行くと言う。

 俺は至急、隠者の手に報告しアルバビロニア大帝国側に万全の体制をとって貰えるよう献策した。

 まあ、信用せずにアルバビロニアが壊滅するのは構わない。

 ただ、その共犯者になりたくないだけだ。

 頭に十の災厄(アンタッチャブル)を乗せた観察対象者が常設市場を闊歩する。

 心臓に激しく悪い。

 俺の思考が即座に答えを弾き出す。

 答えは“成るように成る”だ。

 ちなみに市場にいた人々は、全てサクラ(大帝国側が用意した人)だ。

「こんにちは、ビクトリアス様。本日は冒険者登録でよろしいですか?」

 やりやがった! この女、やりやがったよ! 初対面で名前を受付窓口が知ってる訳ないだろ! 

 流石に殿下も不思議がると思ったが、何故か受付窓口の対応に感心している。

 俺の思考が回答する、答えは“天然さん”だった。

 そう観察対象者は天然さんなのだ。

 もう一度言う、天然さんなのだ。

 そして、俺は観察対象者の行動に免疫が出来たようだ。

 観察対象者が冒険者ギルドの倉庫の

を満杯にする行動にも何も感じなくなった。

 受付窓口の女が華麗に土下座を嚼ます。

 き、綺麗だ。

 違う、違うそうじゃない。

 ごほん、この受付窓口の女。

 かなり出来る、要注意人物だ。

 うんうん、胸も大きいと。

 俺は心の要注意人物帳に、その女を書き加えた。

 そして、その観察対象者は登録日にAランク冒険者に成ると言う冒険者ギルド初の快挙を打ち立て、こう言った。

「冒険者ギルドって凄いね。受付窓口を1番偉い人(ギルドマスター)がするなんて凄いね」

「.........」

 俺は観察対象者を“残念な天然さん”と心で呼ぼうと決めた。

 そして、俺は観察対象者と共に次の目的地“ハルベルト山脈”を目指す。


 紅玉の瞳...その瞳を持つものは“全てを支配”し、“全てを心酔”させ、“全てを見とおす”と言う。
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