第161話 兄弟

文字数 1,152文字

 私は、エリルク・ラグーン。

 ラグーン王国の王兄(おうけい)だ。

 現在は、王を補佐している。



「兄上、今日は腹を割って話し合いたい」

 ラグーン王国の国王と為った弟であるバルクルが、会食をしたいと話があった。

 バルクルとは、いや違うなキルベルともだが、余り話をした記憶が、(そもそ)もない。

 王家故の理由なのか、今となっては問う父王も、母上ももういない。

 キルベルは更迭され、北の塔に幽閉されている。

 本来は反逆罪で死罪だが、陛下は温情でもって弟を処した。

 其れが良いか悪いかは、未来が判断することだろう。



「そう言えば、陛下と二人きりで話をしたことはありませんでしたね?」

「兄上、いや、兄さん。二人で居る時は敬語も敬称も要らない。只の兄弟。弟バルクルとして接してくれないか?」 
 
 難しいことを言う。誰が聞いているかも解らんのだぞ?

 王とは、其の発した言葉、一つ一つに意味が無くても、意味が生まれるのだぞ?



「陛下、此処は王宮です。誰が聞いているか解りません。陛下の言葉は、陛下だけの言葉では無くなる。一人歩きする物だとご理解下さい」 

「兄さん、其の心配はいらない。此の部屋は完全に隔離しているから」

 隔離している、如何(どう)言う意味だ?

「兄さん、何故父上が私を王に指名して亡くなったか理由を知っていますか?」

 知っている。

 父上は、私を枕元に呼びバルクルの過去を、能力を教えてくれた。

 まさに、ラグーン王国の守護者。

 先頃の軍部の反乱行為も、収めたのはバルクル自身だろう。

 バルクルの能力であれば、容易かっただろう。

 そ、そうか! 其の能力で、部屋を隔離しているのならば安全だな!



「知っているよ、バル! お前の能力も父上から聞いている。まあ、聞いても最初は信じられなかったよ!」

 私が陛下の愛称を呼んだからか、バルはニッコリと笑いながら、此れからのラグーン王国の未来を語った。

 何と、其処まで考えて王に即位したのか?

 バルは、(ちまた)では【昼行灯(ひるあんどん)】と呼ばれるグウタラ王子だった。

 其れが、王の遺言とは言え、第1王子である私と、第3王子であるキルベルの派閥を敵に廻して強引に王位に就いた。

 国の運営は、王がするのではない。

 王の手足となって働く者達がいて、初めて国として機能するのだ。

 王は、国の意志決定をすれば良い。

 だが、バルクルは国の手足を切り捨てても、国を活かそうとしていた。

 何が昼行灯だ。此のグウタラな知恵者め!







 私は、エリルク・ラグーン。

 ラグーン王国の王兄(おうけい)で、王の忠実な部下だ。
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