第171話 吉兆

文字数 2,182文字

 私はの名は、ゼスト。

 家名((かばね))は無くした。

 元テスラ王国第1王子だ。



「ぐっ! おおおおおおお~!!!」

 私は化物達と闘っている。

 並大抵の化物では無い。

 アルグリア大陸に生きとし生けるものならば、必ず畏怖する化物達だ。

 十の災厄(アンタッチャブル)

 触れては活けない神々の罰。

 不可避の神罰が、現在(いま)私が闘っている理不尽の塊だった。



「まだまだだな、ゼスト! もう一丁揉んでやる! 来い!」

 いや、ご勘弁を。

 そう思っても、そうは言えない。

 何故なら、言うとああ為るからだ。

 私の視線の先には、ダロス卿が転がっていた。

 ダロス・アジタート卿。アッバース王国【巨神騎士団】の元団長。

 ジャイアントの騎士であるダロス卿が、赤子のように伸されている。

 ダロス卿には、共感すること仕切りだ。

 そう、理不尽。其の一言に尽きる。

 私達をボロ雑巾のように、毎日毎日ボロクソにするのは。

 自分で勝手に私達の師匠を名乗る化物だった。



 十の災厄(アンタッチャブル)の一角、【超獣アプリオリ】。【ヘルメゲン平原】の支配者。

 武器は己の肉体のみと言う化物。

 そりゃ、あれだけ強ければ武器なんか要らないよね?

 勝手なアプ師匠に師事して、一ヶ月が経つ。

 勿論、アプ師匠だけじゃない。

 十の災厄(アンタッチャブル)は、まだまだ控えている。

 

が、他の十の災厄(アンタッチャブル)と闘っている。

 毎日が地獄だった。

 だが、確実に強く為っている。

 最初は皆に付いて移動するだけでも、死にかけた。

 大袈裟で無く、本当に死にかけた。

 全力疾走でも、追いつけない。

 途中で打っ倒れ意識を無くしても、いつの間にか誰かが私を化物集団に連れ戻される。

 ()(がた)迷惑だと、最初は思っていた。

 だが、今では化物達のスピードに付いて往ける。

 (プラーナ)が遣えなくても、結構強く為れる。

 其れが解っただけでも、私は感無量だった。

 (プラーナ)が全てだった。

 其の全てを持たない私は、捨てられた。

 家族に。国に。

 ふっ、私は強く為って、何時か私を捨てた家族と国に会いに行く。

 そして言ってやる。

(プラーナ)? 其れが如何した、私の方が遙かに強い』と。



「ぐっああああ~!」

 アプ師匠は手加減をしない。

 そして、竜気道(ドラゴニックプラーナ)の導師のような理論的な教えでは無い。

 一言で言えば、『感じろ』だ。

 そう、感じろ。

 自分と闘い感じろ。

 えっ? 其れって本当に師匠って言えますか?

 何て聞けない。何故なら良い反面教師が、其処に転がっているからだ。



「ゼスト、闘いの最中に考えごととは、偉く為ったものだな?」

 アプ師匠の言葉が、グワングワンと鳴り響く頭に、更に響き追い打ちを掛ける。

「申し訳ありません、師匠! (プラーナ)が遣えなくても、強く為るって考えていたので、・・・・・・」

 するとアプ師匠は、私を馬鹿にしたようにこう言った。

「何だ、(プラーナ)を遣いたいのか? 早く言え、ゼスト!」

 そう言うと私のボロボロの身体に、直接師匠自らの(プラーナ)を注ぎ込んで来た。

「ぐっあああああああああああ~!!!」

 曾て感じたことの無い激痛が私の身体を襲い、身体がバラバラに為る!

 私は死ぬ! 死んでしまう! 

 そう思いながら、意識を無くした、・・・・・・



「おう、ゼスト! 起きろ、特訓の時間だ!」

 私は、あの日から毎日師匠の(プラーナ)を身体に注入され続けていた。

 もう死にたい。殺してくれ。

 そう何度も言いそうに為った。

 だが、そう言えば。確実に、「そうか!」と言って息の根を止められる。

 其処に転がっているダロス卿が良いお手本だ。

 何時しか、激痛も麻痺してきたのか痛みは全く無くなった。

 其れ処か、何だが暖かい。

 ボロボロの身体が、何故か癒えていく。



「良し、ゼスト! (プラーナ)を遣って見ろ!」

 はぁ? 何を言ってるんですか?

 私は(プラーナ)が遣え無くて、国と家族に捨てられたんですよ?

 そんな私が、(プラーナ)を遣える筈は、・・・・・・



「つ、つ、遣える!!! 師匠! (プラーナ)! 私、遣えますよ!」

「当たり前だ! 俺の遣り方は二つに一つ! 死ぬか遣えるかだ!!!」

 はぁあああ? 私をそんな無茶苦茶な方法で?

 何て師匠だ! ・・・・・・







 最高の師匠じゃないか!!!

 私は感動に打ち震えた。

 あれほど望んだ力! あれほど求めた力!

 其れが遣える!

 理不尽でも、良い!

 身勝手でも、良い!

 アプ師匠、ありがとうございます!







 私はゼスト。

 (プラーナ)を纏うドラゴニュート。

 竜気道(ドラゴニックプラーナ)の全ては、知識として学んでいる。

 私は最強のドラゴニュートに為る者だ。
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