第21話 観察者

文字数 1,561文字

 俺はレディオス・ベクシス。

 隠者の手所属の工作員だ。

 先日、うちの情報収集施設《放蕩の館》が壊滅した。

 それもたった1人の子供に依ってだ。

 俺の

のダリア含め十数名が現在、隔離施設で治療中とのことだ。

 

ダリア姉ちゃんがやられるなんて、信じられないな。

 でも、事実が俺の目標(ターゲット)がヤバい相手だと言っている。

 事実を受け入れろ! そして、考えろ! でないと

ぞ! 

 考え続けられるかどうかで、俺達工作員の任務達成率は劇的に変わる。

 え? 命はだって? おいおい、隠者の手にいる者は皆、既に命は帝国に捧げている。

 大事なのは、帝国の為に任務を

達成することだ! 

 出来るか出来ないかではない、出来るように

だ!


 俺は孤児だった。

 俺と同じ境遇の仲間が家族(兄弟姉妹)だ。

 皆で食べ物を口に出来た日は

幸せだった。

 何故、こんなに苦しいの? 

 何故、生きないといけないの? 

 こんなに苦しいのに? 

 まだ生きないといけないの? 

 お腹減ったよ、兄ちゃん......そう言いながら、1人また1人と死んでいった俺の家族。

 そんな俺達家族を救ってくれたのは、“隠者の手”であり、”帝国“だった。

 戦争のない世界、皆が毎日食べ物を口に出来る世界。

 そんな未来を掴む

として、帝国に俺は全てを捧げた。

 だから、俺は任務に全てを懸ける。

 幼気な子供に見える殿下。

 だが目の前の現実が、強く殿下の異常性を打ち鳴らす。

 離宮から脱け出し、一の郭・二の郭・三の郭、そして外壁門まで危なげなく突破したのは、その幼気な殿下御一人なのだ。

 警備体制の全てを知っているかのように、突発的な事案もいとも簡単に潜り抜けた殿下。

 凄腕の工作員でも真似は不可能。

 何故なら、ここ帝都エルシィの警備は帝国一の堅牢さが求められ、また実行されていた。

 殿下に破られるまでは。

 これは警備部門のお偉いさんの首が、3つ4つ飛ぶな。

 え? 何故、俺が警備に引っ掛からないのかって? 

 ははははは、笑え。

 実は

方から、離宮から外壁門を抜ける方法を

が俺にあったからだ。

「はっ!」

 マジか? 暗闇の森を疾走しながら魔物を狩り続ける殿下。

 この漆黒の中で何故動ける? そして、倒した魔物は一瞬で何故か消えてなくなる。

 血の臭いだけ残して。え? 嘘だろ? 

 殿下がマッドウルフの群れに突っ込んだ。

 ヤバい、ヤバい、ヤバぁぁぁぁぁい! 俺は瞬時に殿下を助ける為に駆け出した。

 俺の任務は殿下の観察。

 だが、殿下の身に危険があれば現場判断で介入しても良いと言われている。

 そうだよな。

 介入せずに殿下がお亡くなりなったら、物理的・精神的に隠者の手は帝国護剣の一剣“傲慢”にあっさりと壊滅されるよな。

 これは決定事項だ。

 何としても殿下をお救いせねば。

 俺はマッドウルフの群れに飛び込んだ。

「はっ! せいっ! たっ!」

「殿下! 御無事ですか?」

 え? 十数匹の群れが斬られて瞬時に消えていく。

 あれ? やっちゃた? 

 俺が群れに突っ込んだ時に斬り伏せたマッドウルフ1匹だけが漆黒の闇の中、ここで確かに戦いがあった証拠として残っていた。

 そして、唖然とする俺に殿下はこう問い掛けた。


「ごくろうさまです、レディオス・ベクシス。あなたには2つのせんたくしがあります」

 そう微笑みながら子供口調で問う殿下を、俺は茫然と見続けていた。
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