第26話 復活

文字数 2,103文字

 我はヨルムガルド。

 十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《禍蛇》にして《巨蛇》と呼ばれる蛇だ。

 使命は“世界樹に近付くものを排除する”事だけだ。

 只、暇だ。

 千数百年で8度だけだ、詰まらない。

 だが、我慢だ。

 不機嫌な素振りは駄目だ、我も学んだ。

 不機嫌な素振りで

は、その気配を嗅ぎ取りやって来る。

 我の天敵、

が我を殺りにやって来る。

 ぶるぶるぶる、怖い。き、来たぁぁぁぁあ!

『ねえ、あなた。今、イラッてしてたでしょ? 私言ったわよね、家ではお互い不機嫌な態度はとらないって? ねえ?』

『ああ、でも我は不機嫌では無いぞウロス』

 咄嗟に誤魔化そうとした我は失敗を悟る。

『あなたが私をウロスと呼ぶ時は、必ず何か疚しい事をしているか、嘘を付いてる時よね、ヨルト』

 千数百年連れ添った相方に隠し事は通用しない。

 はぁ、失敗した。

 うん? 侵入者か、こんな時に。

 は。こんな時だから良いんじゃないか、これで誤魔化せる。

『侵入者だ、ウロス。この話はまた今度だ』

 よし! 侵入者、良い仕事(グッジョブ)だ!

『ヨルト? 私との話と侵入者、どっちが大事なの? 答えなさい!』

 ひ、ひぃー。

 どっちって、比べられないぞ。

 唯一の使命と妻...無理を言うなって言える雰囲気ではない。

『ウロス、お前だよ。我にお前以外に大事なものはない』

 おいおい、何を照れてる? ウロスよ。

 チョロすぎないか、まあ機嫌が少し良くなった。

 勿体無いけど侵入者には帰って貰おう。

『すいません、今立て込んでるので帰ってくれませんか?』

 我は侵入者の小さき者達に語りかけた。

 すると小さき者達の片方、もっと小さき者が呟いた。

「ごめんなさい。先駆けも出さずに突然お邪魔して、本当にごめんなさい。直ぐ失礼します蛇さん。あ、申し遅れました。僕ビクトリアスと言います」

 ペコリと頭を下げ挨拶する小さき者。

 ふむ、礼儀正しき者だ。

 此処に来た者達の中で一番好感が持てるな。

 うん? その礼儀正しき小さき者から匂う、匂う、匂うぞ。これは懐かしき匂いだ。

 我はウロスを呼ぶ。

 ウロスは気だるげに来たが、匂いに気付いたようだ。

『ねえ、小さき者よ? 何故あなたから懐かしい匂いがするのかしら? 小さき者よ、エクアに会ったの?』

 礼儀正しき小さき者は、我が妻が

ようにウロスに向かって答えようと口を開く。

 まあ、偶然だろう。

 我が妻は虚ろいの蛇、その実体に触れる事も、見る事も叶わない《虚蛇》ウロボロス。

「こんにちは、初めまして蛇さん。僕、ビクトリアスと言います。エクアとは多分、僕の母さん“エクスナギア母さん”の事かな?」

 礼儀正しき小さき者が胸元から首飾りを我が妻に見せる。

 な、なんだと我が妻が見えるのか! 我が妻ウロスは2メートル程の体で礼儀正しき小さき者の前に鎮座している。

 我が妻も驚愕の余り声も出ないようだ。

 ふむふむふむ、成る程。

 それでエクアを母親と呼ぶのか、理解した。

 それにしても過保護な事だ。

 

を持たせるとはな。

 我等夫婦には此からも理解出来ない気持ちだろう。

 我等夫婦には悩みがある。

 子が出来ないと言う事だ。

 否、本能で子が作れないと理解している。

 故に夫婦喧嘩が絶えないのも致し方ない。

 お、我が妻が硬直から動き出した。

 ほお、そんな顔もするのか。

 嬉しそうにエクアの子と話す我が妻を見て、何故か胸が痛む。

 何々、喧嘩したら駄目だよって。

 おお、もっと言ってやってくれ、頼む。

 我は感動した、良い子だ。

 我が妻はエクアの子に言う。

 私達にもあなたみたいな子供がいたらなと。

 我は不覚にも、涙を流す。

 く、本能が叫ぶ。

 無理だと、子供は出来ないと。

 だが心が叫ぶ、子供が欲しいと。

 我等夫婦の叶わぬ想い、届かぬ願い。

 ふ、栓無き事を。

 するとエクアの子が屈託無い笑顔で、我が妻と我を見てこう言った。

「2人さえ良かったら、僕の母さんと父さんになってください」

 ペコリと頭を下げる、エクアの子。

 ずきゅ~ん、ずきゅ~ん、ずきゅ~ん、我の心臓は張り裂けそうだ。

 は、我が妻は? ......。......ふふふふふ。

「夫婦喧嘩は駄目ですよ? 喧嘩は両成敗です。ウロス母さん、ヨルト父さん」

 我が子に諫められる、我が妻と我。

 むふふふふふ、何故かにやける。

 我が子はそう言いながらその小さき手の指で、我が妻と我にペチンと指を当てた。

 か、可愛い♥ は。

 な、何故我が妻に触れられる? 胸を締め付ける気持ちと、頭に浮かんだ疑問を最後に我は意識を失った。


 意識の戻った我に泣きながら我が子が謝っている。

 気にするな我が子よ、我が妻も我も我が子に

なら本望だ。
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