第88話 戦雲

文字数 1,057文字

 私はドリトス・トルクス。

 我が主の命により、ミダス・ナリス・レクリアの西方三国を正しき国に戻す。


「団長、ベガは手筈通りに。シリウス・デネブ・カペラ・スピカ・リゲルも合図を待っております」

 副官であるウルクル・ウェンブリが私に告げる。

「ロビュラ・ベガ、主の系譜に名を連ねる同盟者。監視の手を緩めるなよ、ウルクル!」

「はっ!」

 ロビュラ・ベガ。

 ベガ王国、第7代国王。

 領土拡張の野望をひた隠しにする者。

 それを私に付け込まれた男。

 人の欲望とは限り無きものである。

 王として利があれば、為さずにおられない。

 況してや有能なる爪を隠し持つ者なら、尚更好機を逃す筈もない。

 無能な味方よりも、有能な味方の方が先を見通せる。

 馬鹿は何をするか予想も付かないからな。


「団長、東方のリゲル王国より知らせが入っております。何でもエルバビロニア帝国の第3皇子がお忍びで西方を見聞中であるとのこと、如何いたしましょうか?」

 ほう、オルスカの闘技会覇者であり獣王に土を付けた少年か...。

 力こそが正義のビーストマンを制した者、少年と侮ることは危険だ。

 しかし、藪を突いて蛇を出す愚を犯す訳にもいかん。

(監視者)を放て。但し、一切の接触を禁ずる。監視のみにしておけ!」

 不確定要素は排除するべきだが、危険を己から呼び込むこともあるまい。


「赤鬼騎士団、青銅騎士団と接敵しました!」

「合図の狼煙を揚げろ! アーク傭兵騎士団出るぞ!」

 赤鬼騎士団と交戦中の青銅騎士団の後方から、我がアーク傭兵騎士団が伏撃を加える。

 青銅騎士団とはナリス王国の武の象徴。

 それを先ずは叩き潰す! 全ては我が主の為に!


「全軍突撃!!!」

「「「オォオオ!!!」」」

 アーク傭兵騎士団の伏撃に狼狽する青銅騎士団。

 だが、流石は青銅騎士団団長グリスティス・オールバ。

 我が伏撃を受けても、潰走せずに騎士団を上手く統率している。

 しかし、伏撃は1つだけではない。

 青銅騎士団の横背から、私の伏せたもう1つの牙が襲い掛かる。

 青銅騎士団が、攻勢に耐えきれずに戦線が崩壊する。

「戦銅鑼を鳴らせ!」

 銅鑼の音と共に青銅騎士団の逃げ道の両側から第3の牙が襲う。

 青銅騎士団には、ここで壊滅して貰う!

 全ては我が主の為に!


 私はドリトス・トルクス。

 アーク傭兵騎士団団長にして、我が主の忠実なる剣である。
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