第115話 北の強国

文字数 1,750文字

 俺はダロス・アジタート。

 アッバース王国、巨神(タイタン)騎士団の

団長だ。

 儂は“正義の審判”に於いて、殿下に破れた。

 圧倒的な力量差だった。

 しかし、殿下があの件の第3皇子だったとは...。

 然もあらん、殿下だけではないのだ化物は...。

 信じられるか? 儂の目の前に十の災厄(アンタッチャブル)が居るんだぞ?

 殿下の頭の上には、《黒獣》エクリプスが四肢を投げ出し、だらしなく微睡んでいる。

 あの全てを凍らせると言われる者、《氷狼》エンプレスが儂の直ぐ側で静かに瞑想しているんだぞ?

 雷の化身、《麒麟》パラグラムが儂の直ぐ側で黙々と美味しそうにお菓子を食べているんだぞ?

 マリエンテ内海の巨獣、《海竜》リヴァイアサンが儂の直ぐ側で楽しげに、女物の洋服を作っているんだぞ?

 ヘクサ神林の守護神、《千手蜘蛛》アンチノミーが殿下の妻で儂の直ぐ側で料理を作っているんだぞ?

 炎の化身、《不死鳥》ラフレシアが殿下の肩で歌を囀っているんだぞ?

 そして、問題は儂を弟子と呼ぶこの男だ...。

 殿下との“正義の審判”を見て、儂に想うところがあったのだろうが...。

 言わせてくれ! 体が保たない! ヤバいぞ、此奴は!

「グッハァ!」

 儂をボコボコにしているのは、あのヘルメゲン平原の主、《超獣》アプリオリだ!

「グッ、オォォォ~!」

「ええい、何をしているダロス! 師匠として情けないぞ! それ、起きろ!」

 人化した師匠に理不尽にボコボコにされ続けている。

 何故こうなった? 何故なんだぁ~?

 儂は殿下に助けてくれと視線を送った。

 すると殿下は楽しそうに微笑むだけだった。

 駄目だ、まるで解っていない! 

 殿下にはハッキリ言わないと意味が伝わらないと、レディ先輩に口を酸っぱくなるほど言われていた。

 最初は何の冗談だと思ったが、まさか事実だとは...。

 思い出す走馬灯のように...。

 殿下がハミルクリニカ陛下を“正義の審判”の名の元に、ボコボコにして塵のように地面に転がしていた...。

 何故に陛下と殿下を戦わせたんだ? 

 儂は忠告したんだ、殿下は普通じゃないと!

 儂は忠告したんだ...。

 それから、アッバース王国の強者どもが“正義の審判”を殿下に申し出た。

 それをあっさり受ける殿下は、一切の休息もとらずに戦い続けた。

 城の中庭には、アッバース王国の強者達が塵のように転がされていた。

 そして、全ての申し出を終えた中庭の惨状を見ながら、殿下がこう言ったんだ。

「アッバース王国って変わってるね? “正義の審判”って言えば何でも許されるなんて、郷に入りては郷に従えだけど、僕にはちょっと合わないかな~」

 どの口が言ってるんだ?

 殿下ほどアッバース王国に、“正義の審判”に合っている者はいないぞ!

 レディ先輩が痩せ細って、目に隈が出来ている原因は殿下だ、儂はそう確信した。

 そのレディ先輩曰く、殿下は残念な天然さんと言うエルフの希少種らしい...。

 十の災厄(アンタッチャブル)を従えし者は、やっぱり変わった人だった。

 それと他の者達も只者ではない。

 武を愚直に極める

フューダー大王国の将軍で、自国の大王を殴り飛ばした頭の中が打っ飛んでいる男レイ・ホウセン。

 アルグリアの九賢者の1人、《錬金王》レジッド・カバデルア、生ける伝説だ。

 そして、最近殿下の麾下に加わった3人の強者達。

 

レクリア王国の騎士ジューダス・レイピース、剣の扱いが異常な生真面目な男。

 

ナリス王国の騎士団長グリスティス・オールバ、ナリスの守護神と呼ばれた男。

 

ミダス王国の戦士アラート・レーベル、荒削りだが底知れるものを感じさせる若者。

 それに苦労人のレディ先輩を加えた人と言って良いか解らんが、総勢15人で旅をしている。


 そして、儂の目の前には地獄があった。

 理不尽なまでの暴力によって、巻き起こされた惨劇が広がっていた...。

 北の強国と呼ばれる国が、その姿を消した瞬間だった。
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