第9話 執事の独白

文字数 1,967文字

 私はビクター・シュトロゲン。

 執事です。

 我が家は代々皇家の執事として仕える家系です。

 家系特性は若ハゲです。

 そして、私は12年前から、帝国第3皇子ビクトリアス・エルブリタニア殿下にお仕えしています。

 殿下にお仕えするに当たり父からは、殿下の紅玉の瞳(紅眼)について説明を受けました。

 紅眼は殿下が誕生するまでは、エルブリタニア帝国初代皇帝陛下が、唯一の持ち主だったそうです。

 また、その眼で見られた胆力のない者は、覇者の威圧にひれ伏し、覇者の支配に従属するのだそうです。

 そして、私が殿下の執事として選ばれたのは能力は元より、その胆力だと告げられました。

 まあ若い頃は、

をしたものですからね。

 そう言うことで、並大抵の者は、側仕えするだけで精神が病むとのことでした。

 その為、殿下には乳母が現在いないこと。

 乳母が見つかるまで、アリトリアス女皇帝陛下が殿下に授乳すること。

 但し、もしも乳母が

以内に見つからない場合は、私が殿下を他の方の母乳で育てるように言われておりました。

 女皇帝陛下が、国務を空けていられるのは半月が限度だそうです。

 そして、まさにその通りになったのです。

 でも殿下は、他の方の母乳はお気に召さないらしく、愚図りはしないのですが、余りお飲みにはなられませんでした。

 そこで女皇帝陛下の余裕がある時に、母乳を採ってもらって殿下をお育てしておりました。

 しかし、十分な量ではなかったので、殿下は虚弱体質ではありませんが体が少しお弱く、ずっと寝てばかりでおられました。

 このままでは、殿下があまりにも不憫です。

 そこで、私は若い時に取った杵柄で殿下を子守布で包むと、アルバビロニア大帝国領内の金剛山へ行き、

『やあ、エクア。乳をくれないか?』

 十の災厄(アンタッチャブル)の一角、『黄金竜(オウゴンリュウ)』の乳をもらいながらお育てしたのでした。

 そのお陰で殿下は、すくすくと元気にお育ちになりましたが、年齢の割りに物静かなご気性であられました。

 そんな殿下も来年には、帝都の魔法学園か騎士学園にお通いになられるのですが、かなり心配です。

 現在、離宮でも普段からも部屋に籠られ、メイドも殿下の紅眼の影響を考え、誰も近付かないようにしているのに、学園に通う? 無理でしょう。

 断言出来ます。

 無理です。はい。

 しかしながら皇家の慣習がとか、なんちゃらだとか。

 無能な輩が。

 また、殿下の異父兄弟のお家関係が、手を廻しているのでしょう。

 困ったものです。

 困ったと言えば、殿下の剣術の指南役が度々代わり、剣盾のジャンクスに無理を言って、
長剣を教えてもらっていたのですが、殿下には双剣の才能があるから、なんとか

を連れてくると言っておりましたが、

は不味いでしょう?

 

は。

 そして、

が来たのですが、いきなりメイドを、わざと殿下の目の前で口説いていました。

 土下座しながら......。

「ごほん! 初めて御意を得ます殿下!」

 おいおい。

 帝国護剣の一剣が、背後を取られる訳ないだろう。

 下手糞か? 

 全く困った

です。

 そして、どうやら

は私には気付かないようでした。

 しかし、流石は殿下。

 

に全く怯むこともなく、何ごともなかったような振る舞いには臣は感服致しましたぞ。

 何ごともなかったように、中庭で打ち合う殿下と



「.........殿下にその覚悟がおありですか?」

 生意気にも殿下に問い掛けるとは。

 

は一体何様のつもりなのか。

 

にも

に遭ってもらいましょうかね。

「あります。よろしくお願いします」

 ゆっくりと、そしてしっかりと答えた殿下。

 臣は感服の余り、頭が禿げそうです。

 その後、また証拠にもなくメイドを口説き始めた



 ふふふふふ。

 もう殿下はいませんよ? 

 間抜けずらで唖然とした



 愉快。愉快。堪らんな。

「お嬢さん。またお会いしましょう」

 阿呆か。阿呆なのね。阿呆めが。

 ふう。私としたことが。

「よう。いんけん。こんな所で何してるんだ? (ズラ)()れてるぞ?」

 
 

が、私に話しかける。

 阿呆が移るから話しかけるな。

怠惰(たいだ)よ。私に話しかけるな」


 私は、隠剣(いんけん)

 帝国護剣の一剣。

 

の不本意ながら同輩です。
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