第52話 デソロモア王国

文字数 1,276文字

 俺はレディオス・ベクシス。

 隠者の手の工作員、暗号名(コードネーム)オピニオン(知恵の使者)』だ。

 獣王国、オルスカ王国にて観察対象者が闘技会で優勝した。

 勝手に家出中の観察対象者には隠れるとか、見立たないとかの常識はない。

 これで、観察対象者の名はアルグリア大陸に鳴り響くだろう。

 今まで一度として他国の強者に譲らなかった獣王国オルスカの最強の栄冠を、たった12歳の観察対象者が得たことは各国の諜報機関の手で遍く間に知れ渡る。


「家出の意味って知ってます?」

 観察対象者が言いたいことがあるなら言ってくれと言ってきたので、思わずそう言ってから後悔した。

 何故なら、観察対象者にはハッキリと物事を告げても、斜め上に解釈するスキルがある。

 故に、残念な天然さんと俺は呼んでいるのだから。

 6人の旅が、2000余人の旅になった。

 観察対象者は自重しない。

 家出の意味を理解しない。

 エルブリタニア帝国が観察対象者を放っておく訳がない。

 紅玉の瞳の継承者とは、次期エルブリタニア帝国皇帝を意味する。

 他国が指を加えて見ているはずはない。

 災いは小さいうちに取り除く。

 それは戦国の世の不文律だ。


「レディ先輩! これは......」

 俺に後輩が2000人程出来た。

 彼らは現実逃避の捌け口に俺を求めた。

 まあ、十の災厄(アンタッチャブル)との日々の組み手と言う名の拷問に、精神が逝かれたのは致し方ない。

 黒獣エクリプスが、氷狼エンプレスが、麒麟パラグラムが、海竜リヴァイアサンが模擬戦と言う名の地獄を巻き起こす。

 観察対象者は双剣の天才だ。

 そして、師匠としても天才だった。

 そして、弟子を怪物にする観察対象者に俺は疑義を呈する。

 観察対象者は、双剣以外の武器の技をどの様にして知り得たのか? 

 長年の叡知がなければ伝えられない知識と経験を、観察対象者はどの様にして会得したのか?

 観察対象者は弟子の長所を伸ばす天才だった。

 弟子の未知の才能を開花させ、強さの階段を一足飛びに越えていく。

 俺は案じている。

 次の行き先がデソロモア王国であり、現在《魔武乱闘》と言う次期デソロモア王国の国王を選出する制度の受け付け中だと言うことを。

 俺は観察対象者に率直に

を伝えると、観察対象者は何を馬鹿なことをと一笑に伏した。

 しかし、俺は解っている。

 観察対象者は自分で出場する気でいたことを俺は解っている。


「「「「「魔王様、万歳~! チョウ・デソロモア陛下、万歳~!」」」」」

 俺の出来たばかりの後輩が、デソロモア王国の国王になった。

 それも軽くなった。

 圧倒的強さを轟かせて、件の後輩は魔王となった。


 俺は恐ろしい。

 何が恐ろしいって、魔王になった後輩よりも強い俺。

 その俺よりも遥かに強い観察対象者。

 そして、...その観察対象者の残念な天然さん振りが何よりも恐ろしい。
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