第39話 不死山

文字数 1,601文字

「天然って言葉知ってます? 殿下」

 レディは時々、僕に確認する。

 知ってるよ、自然って事だよね? ふー、レディは時々、変な意味不明の確認をする。

 僕は心の中で、残念な困ったちゃんと呼んでいる。

『おい、レディオス。口の利き方に気を付けろ』

『エクス、あなたこそ。口の利き方に気を付けなさい』

 エクス(黒獣)エンス(氷狼)が言い合う。

 なんか良い。

 凄く、良い。

 今、僕達はアサン皇国の霊山《不死山》の頂上を目指して進んでる。

 エンス(氷狼)に跨がって僕達は空中を進んでる。

 シス曰く、霊山には決まりごとがあって頂上までは、こうやって進むのが良いんだって。

 そして、麓から頂上まで魔物と戦うのも禁止。

 シス曰く、郷に入りては郷に従う。

 それがマナーなんだそうだ。

 流石、シス。

 物知りさんだ、尊敬する。

『おいらは麒麟。おいらの相手はお前らでいいのか?』

 頂上に着くと空は曇り、空から稲妻が走り、1匹の魔物が現れて僕達に問う。

 すると、

『違うぜ。俺の友が相手だぞ、パラム』

『ええ、パラム。こちらはビズ1人ですよ』

 エクス(黒獣)エンス(氷狼)が、同じ十の災厄(アンタッチャブル)の一角、《麒麟》パラグラムにそう答え、レディは顔を激しく横に振りながら僕を指差す。

 レディ? 初対面の挨拶が凄く大事なんだ。

 初対面の第一印象が良いか悪いかで、僕達の印象が9割決まる。

 1度付いた印象を挽回するのは難しい。

 ありがとう、礼儀作法のマチル先生。

 よし、残念な困ったちゃんに僕が挨拶の手本を見せよう。

 人は、して見せて。

 言うて。聞かせて。

 させてみて。

 褒めてやらねば人は動かないって、帝王学のキンダル先生が言ってたからね。

「初めまして、こんにちは。僕ビクトリアスと言います。突然で申し訳ないのですが、僕と勝負をお願いします。これ大した物ですが良かったらお食べ下さい」

 ふふふふふ、完璧だ。

 僕はそっとアサン皇国、お土産人気1番の“芋羊羮”を差し出す。

 物ごとを上手く進めるには根回しが大事だって、政治学のオルソン先生が言ってた。

 これって、賄賂って言うんだ。

 そして大したことない物でも大した物だと勿体を付けるのが、貴族社会の礼儀だとマチル先生も言ってた。

 どう、皆。僕の挨拶は? ドや顔で振り向いた僕を、何故か酷く残念なものを見るような目で皆が見る。

 え、なんか僕変なことしたかな?

『おいら、初めてだ。食べ物貰うの。ありがとう』

 そう言うと魔物さんは、パクりと包み紙のまま食べ始めた。

 ここで僕は困った。

 困ってしまった。
 
 芋羊羮は包み紙を除いて食べる物だと伝えるか。

 伝えたら魔物さんに恥を掻かせることになる。

 どうしようシス? 僕一体どうしたら良いの?

『ビズ...どうするもこうするも、もう芋羊羮はないから無視(スルー)よ、無視(スルー)。今度機会があれば食べる前に教えてあげれば?』

 うんうん、流石シス。

 僕そうするよ、うん。

『さあ! おいらと勝負だ! おいらに勝てた奴は今まで誰もいない。お前良い奴だから、もしおいらに勝ったらおいら1つだけおいらの出来る範囲で願いごとを聞いてやる。さあ、来い!』

 なんて良い魔物さんなんだ。

 僕は感動した。

 良し、やるぞ! 僕は右手の拳を握り締め、魔物さんに告げる!

『最初はグー! じゃん拳! ぽい!』

 僕はグーを出す。

 魔物さんの前足が僕の目の前にある。

 魔物さんの足って蹄だからチョキだよね? 良し! 僕の勝ちだ! 

 僕の願いはもちろん“僕の友達になって”だ! ふっふふん~ふ~ん♪ 友達10人出来るかな~♪
 
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